2024/7/9 グアテマラの弟② | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。


今週は、俳優・片桐はいりのエッセイ『グアテマラの弟』を、一部編集してお送りしています。


今夜は、「飴と鞭」の第2夜。


片桐の弟と、その妻のペトラさんが住むアンティグアから半日ツアーで、活火山パカヤへの登山に挑戦した片桐。


日本と同じ火山の国・グアテマラで、その飴と鞭について、思いを馳せる。


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この火山に登る危険は、すぐ目の前に流れる溶岩や、滑る山道以上に、山賊に襲われる事だと知ったのは、既に山を下りた後だった。


全ての案内がスペイン語でされていたのだから、致し方ない。


何も知らぬまま、私は壮絶な景色に出会い、山登りの達成感をほんの少し味わい、火の上を歩く術までも、会得したのだった。


グアテマラには、火山が沢山ある。


アンティグアから臨める山々の中で、唯一活動を続けているフエゴ火山は、今も時々火柱を上げる。



[フエゴ火山]


夜、この山が火の粉を散らす様子は、花火のようだというから、私は折に触れて、弟の家の屋上テラスから観察していた。


昼間に1度だけ、魔法使いが現れた時みたいに、ポフと一塊の煙を噴くのを見た。


フエゴをはじめ、富士山級の火山に囲まれているアンティグアは、地震の名所でもある。


1976年の大地震を経験しているペトラさんは、夜になると家のどこへ行くのにも、懐中電灯を持ち歩いている。


どこかで不意に、ガタリと音がすると、ペトラさんも私も、思わず揃って身を固くした。


地震国に住む者同士の、無言の連帯感だ。


私はどこの国へ出掛けても、例えばニューヨークででも、この条件反射が抜けなかった。


でも、体を強張らせた直後、


「そうだ、ここではその心配をする必要が無いのだった」


と思い直して、愕然とした。


地震の無い生活。


この地球上に、そんな安楽な生活がある事に初めて、気づいたのだ。


あの解放感は、忘れられない。


無意識のうちに、普段自分がどれほどマグマのご機嫌を気にしているのかを、ひしひしと実感した。


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マグマがくれる、飴と鞭。


ご機嫌がいい時は、マグマは私たちに素晴らしい贈り物をよこす。


「温泉」


これも、条件反射か。


この素敵な響きを聞いただけで、私の眉間のしわはすぐにほどける。


一人芝居で、全国を旅した3年ほどの間で、北から南まで、日本各地の温泉はかなり制覇した。


これでも、そこそこの温泉マニアだ。


どんな所のどんな湯にでも、直ちに服を脱いで飛び込む覚悟が、ある。


さて、グアテマラのマグマは、湯を沸かすのか?


日頃、風呂につかる習慣が無い、まず家にバスタブがある事が少ないこの国の人たちが、いかにしてこの火山の恵みを楽しむものなのか。


私は、弟夫婦のお供をして、2泊3日の温泉旅行に出掛ける事にした。


グアテマラ第2の都市、ケツァルテナンゴの周辺には、温泉街道と呼ばれる秘湯地帯がある。


アンティグアから、車で3時間と少し。


標高3000メートルの山道を、車で越えていく。


ケツァルテナンゴの街外れを、20分ほど山の中に入ると、街道沿いに10軒ほどの湯屋が並んだ温泉街がある。


ロス・バーニョス、訳せばそのまま「風呂場」という、地名である。


【画像出典】