本日は午前中、横浜のkino Cinemaにて映画『ブラックボックス 音声分析捜査』を鑑賞してきました。
オフィシャルサイト
映画『ブラックボックス 音声分析捜査』公式サイト (bb-movie.jp)
予告編
【ストーリー】
チュニジアのチュニスからヨーロピアン航空の最新型機がパリに向かう途中アルプス山中で墜落。 乗客300名、乗務員16名全員の死亡が確認される。司法警察の立会いの下、航空事故調査局の音声分析官が、ボイスレコーダー、通称「ブラックボックス」を回収。いつもなら責任者のポロックに同行するのは、最も優秀なマチューだったが、天才的だが故にあまり孤立していた彼は外されてしまう。
だが、まもなくポロックが謎の失踪を遂げ、引き継いだマチューは「コックピットに男が侵入した」と記者会見で発表する。やがて乗客にイスラム過激派と思われる男がいたことが判明。マチューの分析は高く評価され、責任者として調査をまとめるよう任命される。
本格的な捜査に乗り出したマチューは、被害者の一人が夫に残した事故直前の留守電を聞いて、ブラックボックスのアナウンス時刻と留守電に記録されたアナウンス時刻が異なることに違和感を覚える。
【メインキャスト】
マチュー:ピエール・ルネ
※『イヴ・サンローラン』でセザール賞を受賞
ノエミ :ルー・ドゥ・ラージュ:
※当初予定した女優が降板し、ピエールが共演したことがあったルーに打診して決定。約1週間で役作りをしたそう。
レニエ局長:アンドレ・デュソリエ
詳細はIMDBをご参照ください。
航空機内のリアルな描写に、矢口史靖監督の「ハッピーフライト」を思い出しながら、鑑賞しました。主人公は常人以上の聴覚の持ち主で、その音が映画で再現されます。彼の聞こえる音は、周囲の人には聞こえません。だから、異常人扱いされてしまうのです。同僚や上司は彼をうざがり、妻のノエミからも「あなたは頑固だから」と言われてしまい、どんどん周囲から浮いてしまいます。
でも、
最後の最後まで気を抜けない作品です。BEA(フランス民間航空事故調査局)が協力した作品なので、タイトルになっているBLACK BOXを開けるシーンはリアルです。
以下、ネタバレ感想
主人公のマチューは父がパイロットで、父の跡を継ぐべくパイロットを目指しますが願いはかなわず、事故分析担当になりました。その原因のひとつは彼の異常聴覚。そして、すぐにのめりこんでしまい、周囲に強くあたるところです。ですので、周囲からは浮いて、「妄想癖」「幻聴」と言われてしまいます。
こういうことって日常的によくありませんか?ある状況の行く末が直観でわかるけど、説明や証明できないもどかしさ。「取返しのつかないことになるかも」「誰が背負うのかな」と思っていたら、それはやっぱり自分だったりして…。
仮説:テロ
音声データから、スチュワーデスが食事を持って入ったあと、男が入る音が入っており「アラーは偉大なり」の音声が聞こえたことから、テロを疑いしました。
→ところが、遺族から提供された留守電を聞くと、背後に聞こえるアナウンスの時間がブラックボックスと異なることに違和感を覚えます。実は、その音はオリジナルの音声ではなく、前任者のポラックとバルサン(?)が前処理したデータでした。マチューは前任者のポラックを探しますが、ポラックは行方不明になっています。
仮説:テスト不足
航空機の製造会社のテスト不足。飛行フライトをサポートするAI,MHDの不具合を疑います。航空機を認証するのは妻のノエミ。マチューは妻のPCからテストデータを抜き取り、墜落した航空機のMHDを入手します。
→ところが、いろいろなケースを入力してもMHDは正常作動します。マチューは、妻の再就職先もふいにし、自分も失職してしまいます。
仮説:ハッキング
そんな折、甥のドローンが見知らぬ大学生にハッキングされたのを見たマチューは、客席の通信環境からコクピットの操作系統がハッキングされたのではないかという仮説に行きつきます。
仮説:データの改ざん
前任者のポラックがブラックボックスのデータを差し替えた疑いをぬぐえないマチューはとうとうポラックの自宅に不法侵入し、彼の車のカーナビでペガサス社の社長、マチューの親友のグザヴィエ ルノー Reとつながっていることを知ります。
仮説3にしても仮説4にしても、マチューには信頼できる人がなく、単独で調査をすることになります。
そして、驚愕の事実が…。
客席にいた男が興味本位で操作系統に侵入し、AIが暴走しマニュアルでの操縦をできなくしてということがわかりました。実はペガサスの社長のグザヴィエはその事実に行きついていたんですが、ポラックにブラックボックスのデータを改ざんさせ、人為的な原因になるように仕向けたものだったんです。
そのセキュリティに対する課題はグザヴィエは認識していましたが、その責任を負わないために、ポラックにデータを改ざんさせていたんです。最後はマチューの正しさが証明されましたが、マチューは事故にあい(その事故もカーナビハッキングが原因!!)、生死不明の状態になりました。物語としては完結しているのですが、あまりにも身近な問題すぎて、背筋が凍りました。
自動運転の自動車がハッキングされたら…
マンションのスマートキーが盗まれたら…
セキュリティについて、今までは物理的なセキュリティだけを考えていればよかったんですけどね。便利さとリスクは背中合わせなんだということを実感。
ぜひ、中高年中高生の教育教材にしてほしい映画です。
ではでは。
■ご参考
【サイゾー】『ブラックボックス』旅客機墜落事故の謎を「音」だけで解く
(抜粋)
その主人公を演じたピエール・ニネが、佇まいや一挙一動から生真面目さが伝わると同時に、神経質すぎる人柄を体現していて素晴らしい。彼はBEA(フランス民間航空事故調査局)のメンバーにも長時間にわたって何百も質問をして、音声分析官というプロフェッショナルのキャラクターを作り上げた。さらにヤン・ゴズラン監督から映画『カンバセーション…盗聴…』(1974)を観るように言われたピエールは、ジーン・ハックマン演じるオーディオテープをしつこく聞く男からも大いにインスピレーションをもらえたのだそうだ。
ちなみに主人公の妻を演じたルー・ドゥ・ラージュは、元々この役を演じる予定だった俳優が撮影の1週間前に降板してしまったための急な配役だったという。ゴズラン監督は彼女に観客に疑念を抱かせるような、謎めいた感じや不透明さがある、ヒッチコック映画のイメージを持たせたかったそうで、その意図を見事に組み上げたキャラクターを見事に体現していた。繊細な夫を支える理想的なキャリアウーマンでありながら、どこかファム・ファタール(男を破滅へと導く女性)のような危うさも併せ持つ、その役柄の妙にも期待してほしい。
(略)
その具体的な問題の1つが、AI を活用した自動操縦による危険性だ。ゴズラン監督はその理由を、「人間と機械のせめぎ合いや、僕らの生活がいかに技術に支配されているかという、航空業界の枠を越えて、あらゆる業界の問題にもつながる」と説明している。事実、2019年春にゴズラン監督が脚本の仕上げに入った頃、大多数の国がパイロットの操縦よりも失速防止ソフトウェアが優先された、パイロットアシスタンス・システムを搭載するボーイング737マックスの飛行を禁止した。そのシステムがわずか6か月足らずの間に、インドネシア、次いでエチオピアで墜落事故が起きた原因だと判明したのだ。このことについて「現実が僕たちに追いついてしまった」とゴズラン監督は指摘している。
(抜粋ここまで)
ヤン・ゴズラン監督インタビュー / Interview de Yann GOZLAN
映画『ブラックボックス:音声分析捜査』 ピエール・ニネ/ロングインタビュー映像公開
(抜粋)
フランシス・F・コッポラ監督による『カンバセーション…盗聴…』(1974)にも刺激を受けた。盗聴のプロが殺人事件に巻き込まれるミステリーだ。「録音テープを聴き続ける行為を理解したよ。登場人物の性格の描写も僕は興味深いと思った。何ごとにも細かいのと、ペンを並べるしぐさなんかもね」とかなりの参考作になったようだ。
そして、監督・脚本のヤン・ゴズランにも全幅の信頼を寄せる。「とことん突き詰めて考えるし、要求が厳しくて期待が大きい。全力を尽くして粘り強く映画に取り組む監督だ。スリラーというジャンルにおける脚本の完成度や的確な語り口や無駄のない構成を感じる。冒頭の映像がすばらしい。巨大な飛行機と乗客400人が映し出される。映画らしい表現に監督の資質を感じる」と絶賛だ。
(抜粋)
ゴズラン 特に、ブラックボックスの中のメモリーカードを防護しているさまざまなものの質感をしっかり表したいと思ったのと、ガラス越しに見ている人々、航空機のメーカー、航空会社、パイロット、調査官など、さまざまな関係者が見ているのですが、その人たちが非常に緊迫感を持ってそこに臨んでいる儀式的な雰囲気を表現したいと思いました。実際、それぞれがものすごいストレス、緊張感を抱えてそこにいるわけです。メモリーカードは無事なのか、分析可能なのか。さらには、その分析によって事の真相が明白になれば、まず、遺族への人間的な影響があります。経済界に与える影響も、非常に大きいものです。ブラックボックスには、それらの責任というものが詰まっているのです。
(略)
映画にとって、「物語を語る」ということはもちろん大切なのですが、自分にとっては、「感覚的な経験を与える」ということにもとても興味があって、その点で音は重要なファクターです。ですから、自分の映画を作っているとき、音声の編集とミキシング、この段階が、一番好きなんです。というのは、映画自体をカメレオンのように変身させることができる段階だと思っているからです。
(抜粋ここまで)
【ロイター】737MAX墜落、システム設計など原因=インドネシア最終報告
(抜粋)
米規制当局から十分な監督を受けていなかったボーイングBA.Nが、コクピットのソフトウエアにおける設計上のリスクを把握していなかったことが墜落の一因になったとしたほか、乗員によるミスもあったと結論付けた。
この事故の約5カ月後にはエチオピア航空の別の737MAXも墜落。世界的に同型機の運航停止につながった。
報告書は、機体の失速を防ぐためのシステム「MCAS」の設計を指摘。これが自動的に機首を押し下げ、パイロットが機体をコントロールするのが困難になったとした上で、「MCASの設計と認証の過程で、機体が制御できなくなる可能性を十分考慮していなかった」とした。
(抜粋ここまで)
※映画に関する部分のみ抜粋していますが、ほかの要因も記事では説明されています。