岩感の正体

全成俯瞰全


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 リーグ戦9位(13勝5分16敗・40得点45失点)、YBCルヴァンカップベスト8、天皇杯ベスト4。
リーグ戦では上位半分に入り、2つのカップ戦でもそれぞれ上位に進出したことを考えれば、そう悪い結果ではない。
しかし、どうにも物足りなさを覚えている方も多いのではないだろうか。
その理由は明らかだ。
タイトルへの期待が大きかったためだ。
では、2017シーズンのヴィッセルの戦いはどうだったのか。
セカンドステージで2位へと躍進した2016シーズンとの比較をしながら、データで振り返ってみる。
参考としたのはデータスタジアム株式会社が公開している「Football LAB」(http://www.football-lab.jp/)だ。

2017シーズンと2016シーズンの戦い方を比較してみると、そのスタイルはほとんど変わっていなかったことが判る。
セットプレー、攻撃位置、カウンター、ポゼッションなど全ての項目において、指標上で大きな違いはない。
そんな中で、目立って数値が変化しているのは「コンパクトネス」の項目だ。
全体を如何にコンパクトにしていたかを示す数値だが、それによると2016シーズンのヴィッセルは縦幅はJ1の中で最も長かった。
しかし2017シーズンはここを2.3m縮め、リーグ全体の中でも中位に位置していた。
しかし横幅となると2016シーズンに比べ7.4m広がっているのだ。
ピッチ全体を広く使おうという試みがなされた結果ではあるが、そこでボールをつなぎきれなかったことで、2016シーズンのような迫力のある攻撃が見せられなかったともいえる。
 これを戦国時代に使われていた陣形に例えてみる。
2016シーズンは縦に長いながらも、横をコンパクトにし、前に厚みを持たせたことで「鋒矢の陣」のような格好になっていた。
この陣形は前後に長いため、横からの攻撃には弱いが、縦の突破力には優れている点が特徴だ。
前線に突破力のある選手がいたこのシーズンのチームには最適の陣だったといえる。
これに対して2017シーズンの縦に短く、横に広い構えは「横陣」のような格好だ。
この陣形は広い範囲をカバーできるという長所がある一方、一点突破に弱いという一面を持っている。
そのためこの陣形に対しては、どちらかのサイドを徹底して衝くことで、反対側からの援護をし難くするのが、攻撃側の鉄則だ。
2017シーズンのヴィッセルが、サイドバックとセンターバックの間を衝かれることが多かったことを思えば、守備の際に横幅を詰め切れなかったことが成績を落としたことの原因だったとも言えそうだ。

 次に攻撃面の数字を見ていく。
2016シーズン56だった得点数は40へと、大きくその数字を落とした。
しかしチャンス構築率だけを見れば、2016シーズンから向上している。
30mラインまでの侵入回数は2016シーズンより増えているのだ。
しかしチャンスをゴールに結びつける「成功率」は、2016シーズンリーグトップだったのに対し、2017シーズンは14位と大幅に順位を下げている。
問題は決定力にあったことが、数字の上からも判る。
ここにレアンドロ不在の影響を見ることができる。

 一方、守備面では2016シーズンと比較して、それ程大きく数字を落とした印象はない。
むしろ被チャンス構築率などは改善していた。
ここで特徴的なのは失点のパターンだ。
2016シーズンと比較して、クロスからの失点の割合が増えていた。
これは、前記の陣形の話と密接に関係している。
筆者の印象としては、特にヴィッセルの左サイドが狙われていたように思う。
なかなかシーズンを通じて選手を固定し切れなかった左サイドバックに対して、複数の選手でアタックをかけ、空中戦に強さを発揮する渡部博文を釣り出し、そこからクロスを入れるというパターンの攻撃に苦労させられていた。
ここが守備においては鍵だったように思う。

 次に選手個別に数字を見ていく。
攻撃面で最も指標が高かったのは渡邉千真だった。
その数値は47.41。
これは決して高い数値とはいえない。
2016シーズンに、この数値を上回っていたのは当の渡邉を含めた4選手。
そのいずれもが50を超える数値を叩き出していたことを思えば、やはり2017シーズンは攻撃に迫力がなかったといえそうだ。
 因みにこの数値は試合出場数に比例するため、ルーカス ポドルスキの数値は低くなっている。
もし年間フル出場したとすれば、単純計算では78.7となる。
これはリーグ全体で2位に相当する数字であり、2016シーズンのチームトップだったペドロ ジュニオール(鹿島)の数字をも大きく上回るものだ。

 また、パスの数値がチームトップだったのは岩波拓也だった。
2016シーズンに、この部門でチームトップだったのはレアンドロ。
その他にもペドロ ジュニオールや渡邉といった選手が同等の数値を出していたことから、2016シーズンは前でボールが動いていたことが判る。
これに対して2017シーズンは岩波に次ぐ数値としては、前線では渡邉、中盤では大森晃太郎、藤田直之、守備陣では渡部が似たような数値を出している。
これは全体でボールを動かしていたという見方もできるが、やはり前で高い数値を出す選手が少なかったことにフォーカスしたい。
この数値も出場試合数に比例しているのだが、シーズン後半、攻撃の要だったルーカス ポドルスキを全試合出場していたと計算すると、チームでダントツトップの数値になる。
シーズン終盤はゲームメーカーを務めていたため当然ではあるのだが、ルーカス ポドルスキのパス能力は頭一つ抜けていた。

 ドリブルがチーム最多だったのは大森だった。
大森の数値はリーグ全体では20位。
トップの齋藤学(横浜FM)と比較すると半分以下の数値だった。
リーグ屈指のドリブラーである齋藤が傑出した存在であるともいえるが、ここもルーカス ポドルスキの数値を年間に換算すると全く異なる様相を呈してくる。
ルーカス ポドルスキの数値は2016シーズンのペドロ ジュニオールと同等の数値となり、今シーズンの齋藤に次いでリーグ2位に入る。
低い位置でボールを受けることも多かったため、それだけドリブルする機会も増えたともいえるが、ルーカス ポドルスキが前にボールを運ぶ役割をも遂行していたことが証明された。

 クロスについてチームトップの数値を叩き出したのは、右サイドバックの藤谷壮だった。
出場試合数では、同じポジションを争う高橋峻希と半分ずつ分け合ったような格好だったが、出場試合数が1試合少ない藤谷の方が高い数値を記録した。
クロスは本数よりも質が求められるため、数を放てばいいというものではないが、それでも藤谷の積極性は目立っていた。
高橋(峻)、藤谷とも出場試合数で割り返すとリーグトップクラスの数値となる。
問題は左サイドだ。
橋本和は右サイドと同等の数値を出しているものの、出場試合数が半分にも満たない。
橋本に代わって左サイドバックを務めることの多かった三原雅俊、松下佳貴はどちらもクロスの数値は高いとはいえない。
負傷の影響とはいえ、左サイドバックを橋本で固定できなかったことも、攻撃力の低下につながったといえそうだ。

 守備において、相手のボールを奪い、そこから味方の攻撃につなげた回数のカウントでは渡部がチームトップの数値を出している。
その数値はチーム2位の岩波を圧倒し、2016シーズンチームトップだった伊野波雅彦の数値をも大きく超えている。
渡部の数値はリーグ全体でも10位だった。
首位の昌子源(鹿島)には大きく水を空けられているが、渡部が年間を通じて守備の中心として機能していたことが判る。
渡部は空中戦の強さもダントツであり、期待通りの働きを見せてくれたといえそうだ。

 このように数字を見てくると、2016シーズンに比べて攻撃の圧力は弱まっていた姿が見えてくる。
繰り返しになるが、その最大の原因はレアンドロの不在に尽きる。

【レアンドロ選手】
 ネルシーニョ前監督にとって最大の誤算は、エースであるレアンドロの戦線離脱だったことは間違いないだろう。
2016シーズンの得点王が開幕戦で受傷し、長期離脱となったことで青写真は大きく狂った。
高い決定力に加え、前線でボールを持ちながら時間を作り、2列目以降の選手を呼び込むことのできる「万能型FW」へと進化したレアンドロは、文字通り攻撃の軸としてネルシーニョ前監督のプランに組み込まれていたはずだ。
そのレアンドロが70分間足らずのプレーのみで、残りのシーズンを棒に振ったのは、ヴィッセルにとって最大の誤算だった。

 ネルシーニョ前監督はレアンドロの代役として、キャプテンの渡邉を前線の軸に据えた。

【渡邉千真選手】
 レアンドロの負傷で、最も負担を強いられたのが渡邉千真であることに異論はないだろう。
2016シーズンまで左サイドハーフを主戦場として結果を残してきた渡邉だったが、2017シーズンはトップに入ることが多くなった。
ボールを握る技術や決定力、ファーストディフェンダーとしての走力など、残る選手を比較した時には渡邉しかいないという選択ではあったように思うが、渡邉はこの役割の変更にも必死で応えようとしていた。
そこには主将としての責任感もあったとは思うが、それ以上にチームの勝利を希求する渡邉の自己犠牲ともいえる精神が感じられる。
渡邉のここ数年間の動きを見ていると、セカンドストライカーとしての適性が高いように思う。
ゴール前での嗅覚は、他の選手の追随を許さないものがある。
だからこそレアンドロのような万能型FWの後ろでプレーさせたかった。

 攻撃の軸が定められなかったことで、ヴィッセルのサッカーは変質を余儀なくされた。
シーズン途中、待望のルーカス ポドルスキがチームに合流したが、ルーカス ポドルスキの活かし方を見つけるまでには時間を要した。
結果的にネルシーニョ前監督はチームの形を作りきれないままに、3度目の3連敗を喫し、チームを離れることとなった。

【ネルシーニョ前監督】
 「ネルシーニョ前監督のサッカーとは何か?」と問われ、明確な答えを出すことは難しい。
なぜならネルシーニョ前監督は、確固たるスタイルをチームに持ち込むタイプの指揮官ではないからだ。
監督には2通りあると筆者は考えている。
1つは自分の「型」を持ち、それをベースにチームを作り上げていくタイプ、そしてもう1つは相手に応じた戦い方で結果を残していくタイプだ。
ネルシーニョ前監督は、完全に後者だ。
このタイプの監督はどんな相手に対しても勝機を見出すことができる反面、思い描いたプランが崩れたときに歯止めがかからないのが特徴でもある。
選手個々の力量がダイレクトに反映されるため、相次ぐ負傷者の発生というトラブルに際して「戻るべき場所」を持っていないことが裏目に出てしまった格好だった。
 ネルシーニョ前監督がヴィッセルの指揮を執った約2年半、タイトルをもたらすことはできなかったが、ヴィッセルに残したものは決して小さくない。
勝負にこだわる姿勢、トレーニングでの厳しさを求める姿勢、全ての選手にチャンスを与える積極的な起用など、この間ヴィッセルに所属していた選手にとっては、サッカー選手として大事なことを学ぶことができたのではないだろうか。

 ネルシーニョ前監督の後を受けたのは吉田孝行監督だった。
「型」を持たないチームをシーズン途中から引き受けるという難しいミッションは、監督初経験の吉田監督には厳しい条件だったかもしれない。

【吉田孝行監督】
 吉田監督が指揮を執った公式戦は17試合。
6勝4分7敗という数字は、監督初就任という事情を勘案すれば、まずまずといったところかもしれない。
監督就任後、数試合模索する時期はあったが、ルーカス ポドルスキに自由を与え、攻撃の軸とする戦い方に辿り着いた。
傑出した能力を持つルーカス ポドルスキをどう活かすかという課題に対して、「決める役」ではなく「決めさせる役」を割り振ることで、一応の解決策を提示した。
これによって攻撃面は整理された部分があるが、守備面での解決にまでは至らなかった。
シーズン終盤、先制しながらも逆転を喫する試合が続いたのはこれが原因だ。
吉田監督が希求した前線からの連動した守備というまでには至らなかったため、試合経過とともに個人で守る場面が増えてしまい、最後はサイドにスペースを作られ、そこを起点に崩される形が続いてしまった。
こうした「弱点」に対して瞬時に対応することが、監督には求められるが、そうしたトラブル対策は経験値がもたらすものでもある。
吉田監督にとっては試合中の交代策を含めて、思うようにいかない場面が多かった半年間だったのではないだろうか。
 しかしどの監督も、こうした難しい経験を積み重ねながら成長していくものだ。

 数字からも明らかなように、攻撃において傑出した数値を出すことのできるルーカス ポドルスキの能力は本物だ。
ヴィッセルにとっては「ルーカス ポドルスキ」という最強の武器をどのように配置するのかという命題がチーム浮沈の鍵を握っている。

【ルーカス ポドルスキ選手】
 今季のJリーグにおいて最大の注目選手だったと言っても過言ではないだろう。
シーズン後半、ヴィッセルに加入したルーカス ポドルスキは、圧倒的な存在感を示した。
ドイツ代表歴代3位の得点力を誇る左足は、文字通り特別な存在だった。
Jリーグデビュー戦となった第19節の大宮戦で見せた振り向きざまのゴールは圧巻だった。
この希代のストライカーをどう活かすのかは、その後のヴィッセルにとって最大の課題となった。
走行距離を問題視する声も一部では聞かれたが、筆者はそこは問題ないと考えていた。
ドイツ代表として見せた走行距離と、それほどの差はないからだ。
単純に比較できる問題ではないが、ルーカス ポドルスキの動きから逆算したチームビルディングができれば、それは他チームにとって大きな脅威となる。
2017シーズン終盤はゲームメーカーに徹したが、そこでも高い技術を見せた。
ワンタッチでサイドを変える技術などは、「これぞ世界基準」というべきものであり、Jリーグではなかなかお目にかかれない高質なものだった。

 ルーカス ポドルスキをゲームメーカーに配することで、一応の解決策を見つけたが、やはりそれとても完全な解決策ではなかった。
チームに「型」がないことで、守備面において「守り切るしぶとさ」を発揮できなかった。
シーズン終盤の連敗は、対処療法の限界を見せられた格好となった。

 ここまで厳しい言葉を続けてきたが、それも期待の高さ故ということでご容赦いただきたい。
負傷者が続出し、一時はレギュラーの半数以上が不在となる非常事態を迎えながらも、冒頭で書いたように全ての大会で中位以上の結果を残したことは、チームに底力がついてきた証左だ。
ヴィッセルがほんの数年前まで、「残留争いの常連」だったことを思えば、クラブが急成長していることは紛れのない事実だ。

 チームの成長は、登山に例えられることが多い。
頂上に近付くほど、その角度は急となり、歩は遅くなる。
学生時代から登山を続けている友人によれば、8合目から先の道のりが最も厳しいそうだ。
頂点に立つためには、そこまでに費やした以上の労力が必要になるという。
ひょっとすると我々観る側は、このことを忘れていたのかもしれない。
願った通りの結果ではなかったが、ヴィッセルは着実に前進している。
上位が見える位置までは来たが、ここからの道のりこそが本当の勝負であり、厳しく長い道のりなのかもしれない。
しかしその厳しい道のりを、速度を上げながら歩んでいってくれるものと固く信じている。
そして、その成長する姿をサポーターの皆さんとともに見続けていきたいと思っている。
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