今年の第44回芥川賞受賞作『苦役列車』(西村賢太著)。
フリーターが芥川賞をとったというので、騒がれました。
でも、この方、単なるフリーターではありませんね。
芥川賞候補にすでに3回なっています。
まさに3度目の正直。
私小説、という分野でほとんどが彼の経験を文章にしているのですが
当たり前ながら、リアリティたっぷりで、日雇い労働の辛さ、心持、不安感などが
手に取るようにわかりました。自分の恥をさらけ出すことは、決して恥ずかしいことではない、
むしろ、他の人の共感を呼ぶのだ、と思いました。
なぜ、こうなってしまったのか、というようなこともしっかり書かれており、
空想の世界に浸りがちな小説のなかでは、まさにドキュメンタリーで
読み応えがありました。
もう1つの受賞作品である『きことわ』(朝吹真理子著)は、
ご本人のお父様がフランス文学者、お祖父様が翻訳家という恵まれた環境で育ったがゆえか、
全体の文章や流れに育ちのよさが見えてきており、美しい情景が目に浮かぶものの、
やや退屈な感がありました。まさに、対比的な芥川賞でした。