私の家は、丘の上に建っていて、その丘一帯の名はLinda Vistaという。

スペイン語で美しい眺めという意味だ。

私の家の近くからは、東側にはミッションバレーという谷とその向こうの丘や山が見渡せる。そして西側には太平洋、ミッションベイ、サンディエゴベイが見える。

もちろん、特別に見晴らしのいいところに住んでいるのでなければ、どこからでも見えるわけではないので、普通の生活をしているときにはあまり意識しない。

 

今回、外出を控えるようにという指示が出てからは、ジョギングをする場所を近所に切り替えた。

それまでは、丘を下って海辺に車を停めて、公園やビーチを走っていたのだが、そういう場所は全て閉鎖されてしまったのだ。

普段の生活は車での移動が主なので、時々、運転をしていて、景色が良いと思う場所はあっても、あっという間に通り過ぎてしまい、じっくりと景色を眺めることはない。

 

今回、近所を走るようになって、改めて、景色の良い、気持ちの良い場所を再発見した。うちから、坂道を海の方へ降りていくと、その途中にUSDという大学がある。

この敷地内に、Garden of the sea〜 海を望む庭〜というのがあるのだけれど、いつ行っても、そこには静かで澄んだ良い空気が流れている。

 

USDは、カソリックの学校なので、敷地内にはスパニッシュコロニアル様式の美しい教会がある。散歩していると、タイルで彩られた噴水がいくつもあって陽光が波紋とともに、キラキラと輝いている。よく手入れされた植え込みや庭には、この土地にあった花々が生き生きと元気よく、芳しい香りを漂わせ、今、人のいないその校内やガーデンは静かで人がいなくて、ただ鳥の囀りと噴水の水音、椰子の葉の風に揺れる音ばかりが聞こえる。

時折、近所の人が犬を連れて散歩に来ていたり、子供連れできていたりするけれど、すれ違うのは、ほんの数人。

海の向こうに夕陽が落ちる頃にいくと、その時間はまた、ひときわ美しい。

荘厳ともいえる、サンセットのひと時が過ぎると、澄んだ藍色の空の下、街が輝き始める。

庭の花の甘い香りが、一層、濃くなる

 

USDの建物にも、灯りが灯る。

ガーデンに立つ、アッシジのフランチェスコの像は不思議な優しい表情を浮かべている。

少し、マジカルなような、奇妙な、美しさに打たれる。

ここまで、約5キロの道のりを走り、ガーデンを散歩して一息ついて、景色を眺め、そしてまた5キロを今度は坂道の登り坂を走って帰ってくるのが、最近のお気に入りジョギングコースだ。

 

ほんの数週間を予定しての帰宅。今回の騒動がなければ、毎日海へ山へ出かけ、食べ歩き、飲み歩き、こんなふうに近所で静かな時間をすごすことはなかっただろうと思う。

 

改めて、自分の生きている世界の美しさをしみじみと見つめて、感謝を感じる。

眺めの良い丘に長年、住んでいたのに、その眺めにほとんど目をむけることもなく生活していたことに、今回気がついた。

そして、そのことに気がつけて本当に良かったと思う。