れすくーる・ひるずのれすくーる・まうんてん。
 そのふもとに、くっくはやってきました。
 くっくはこの山でうまれ、そだち、ライチとであったのです。
 くっくは山をみあげます。そして、ぶるっとみぶるいをしました。
 「こわいけど・・・いかないとごしゅじんさまが・・・。」
 おそるおそる、くっくは足をいっぽ、ふみだしました。
 
 なぜ、くっくはこわがっているのでしょうか?
 それは、この山にすむくまたちには、こういうおきてがあるからです。
 いちど山を出たら、にどと戻ってきてはいけない、というおきてが。


 あんのじょう、くっくは山にすむくまたちにかこまれてしまいました。
 いっとうのくまが言いました。
 「おまえはベアクロウだな。どうしてもどってきたんだ。この山のおきてをわすれたわけじゃないだろう。」
 ちなみにベアクロウとは、くっくがこの山にすんでいたときの名前です。
 くっくはみんなにたのみました。
 「ぼくのごしゅじんさまが、びょうきでくるしんでいるんだ。だからびょうきにきくグリードルをつかまえにきたんだ。おねがいだからここをとおして。」
 しかし、くまたちはどいてくれません。
 それどころか、みんなさっきだっています。
 「おきてをやぶったものにはばつがひつようだ!」
 「そうだ! ベアクロウをつかまえろ!」
 じりじりと、くまたちはくっくにせまってきます。
 だけど、くっくはいっぽもひきません。
 いままさに、くまたちがくっくにとびかかる・・・と、そのときです。
 「まて!」
 大きなこえがきこえました。
 くっくとくまたちは、いっせいにこえのしたほうをむきました。
 そこには、ひときわからだのおおきい、くろいけのくまがいました。
 「カムイ!」
 くっくはさけびました。
 カムイとよばれたくまは、ゆっくりとあるいてきます。ほかのくまたちが、カムイのとおるみちをつくるため、よこにそれていきます。
 そしてカムイは、くっくのまえに来ました。
 「ベアクロウよ、なぜおきてをやぶって、山にもどってきた?」
 くっくはりゆうをせつめいしました。
 「ぼくのごしゅじんさまが、びょうきでくるしんでいるんです。だからびょうきにきくグリードルをつかまえにきたんです。」
 カムイはいいました。
 「そうか。それはたいへんだな。だがおきてはおきてだ。おまえをとおすわけにはいかん。」
 くっくはくいさがります。
 「おねがいします。ここをとおしてください!」
 カムイはくっくをにらみつけますが、くっくは目をそらしません。
 さきにおれたのは、カムイでした。
 「そこまでとおりたいか・・・ならば、力ずくでとおるんだな。このわたしとすもうでしょうぶして、かったらとおしてやろう。」
 そのことばをきいて、くっくはあせりました。
 カムイはこの山のくまたちのおやぶんです。とうぜん、この山のくまたちの中で、いちばんつよいのです。
 じじつ、くっくはカムイとすもうをして、一回もかったことがありませんでした。
 しかしほかに手はありません。
 くっくはいいました。
 「わ、わかった。しょうぶする!」


 いっとうのくまが、じめんにどひょうをかきました。
 その中で、くっくとカムイは向かいあいます。
 「ベアクロウよ、うらみっこなしの一回しょうぶだぞ。まけたらすなおに山を下りろ。」
 「わ、わかった!」
 くっくはそういいましたが、からだはブルブルふるえています。
 ここでまけたらグリードルはつかまえられません。
 つまり、らいちはたすかりません。
 「よし、いくぞ!」
 そういって、カムイはかまえました。くっくもまけじと、かまえます。
 「それじゃ、いきます。」
 ぎょうじのくまが言いました。
 すもうのるーるはかんたんです。ぎょうじが「はっきょい、のこった」といったあと、あいてをじめんにたおすか、どひょうの外に出せばかちです。
 カムイはしんけんな目で、くっくをみつめます。
 「(こわいけど・・・ここでかたなきゃ、かたなきゃ!!)」
 くっくは、さらにしんけんな目で、カムイをみつめます。
 そして。
 ぎょうじがいいました。
 「はっきょい、のこった!!」
 くっくとカムイはあいてをおしだそうと、ものすごいいきおいでぶつかりました。
 どん!
 どひょうじょうで、2とうがとまります。
 まわりで見ているくまたちから、「おー!」というこえがあがりました。
 くっくはふしぎに思いました。それもそのはず、むかしはここでふきとばされて、負けていたからです。
 くっくとカムイはおしあいます。その力は、ごかくでした。
 「(カムイにまけていない、なんでだろう? ・・・そうか!)」
 くっくはきづきました。
 この山を出てから、くっくはライチとたくさんたびをしました。そして、たくさんのもんすたーとたたかいました。
 そのたびが、くっくをつよくしていたのです。
 くっくはこんしんの力をこめて、カムイをおします。
 カムイもまけじと、くっくをおします。
 だけど、じりじりと、じりじりと。カムイのからだが、さがっていきます。
 そして、カムイのあしが、どひょうを出ました。
 かったのは、くっくでした。
 
 「つよくなったな、ベアクロウ。やくそくどおり、とおしてやる。」
 カムイはすなおにまけをみとめ、くっくにそういいました。
 「ほんとうに? やったー!」
 くっくはとびあがってよろこびます。そして、いちもくさんに、グリードルがすむ川へ走っていきました。
 
 りょうていっぱいのグリードルをかかえ、くっくはレストラン、シェル・レランにもどってきました。
 そのグリードルをみて、シレーナとカマロンはおどろきました。
 「すごいですわ。これだけあれば、ライスがたけますわよ!」
 カマロンはグリードルからわき水をとりだします。
 シレーナはその水をつかって、ライスをたきます。
 「まっていてごしゅじんさま、もうすぐライスがたけるよ。」
 くっくは、ねつでうなされているライチのそばで、じっとその手をにぎっていました。
 そして、なべをもったシレーナが、へやに入ってきました。
 「ライスがたけましたわ。」
 シレーナはなべにはいっているライスをスプーンですくうと、ライチの口へはこびました。
 もぐもぐ。
 するとどうでしょう、ライチのかおいろは、みるみるうちによくなっていきます。
 あれだけくるしそうにしていたひょうじょうも、もうありません。
 「おいしい・・・。」
 ついに、ライチの目がさめました。
 「やったー!!」
 くっくとカマロンは、手をとりあってよろこびました。
 「ほら、おいしいからもっとたべなさい。」
 シレーナはライスをすくって、ライチにたべさせます。
 「おいしい! もっとちょうだい!」
 ライチはさいそくします。
 「そうだ! こうすればたくさんたべられるよ。」
 くっくはなべに手を入れると、ライスをたくさんつかんで、ぎゅっぎゅっとにぎりました。
 「はい、ごしゅじんさま、たくさんたべて!」
 くっくはらいちに、おにぎりをさしだします。
 「わーい、いただきます。」
 ぱくっ。
 ライチはおにぎりをたべました。
 ・・・すると。
 ライチのすがたが。
 くまになってしまいました。
 「・・・あれ? どうしてぼく、くまになってるの?」
 ライチはあわてふためきます。
 くっくとシレーナとカマロンは、口をあんぐりとあけておどろきました。
 
 くまがまごころこめてにぎったおむすびは、食べた人をくまにへんしんさせてしまうこうかがあるのでした。
 (第29章 完)