私はあまりBlack Lives Matter(BLM)について触れない。
日本のリベラル左派はBLMを杓子定規な人種問題にしたがるけど、あまりそういう簡単なものではないと思うし、安易に触れたくないと思っている。

ちょうど昨年の今ごろ、AntiFa界隈から反緊縮派への攻撃といえる、ビル・ミッチェル招聘妨害未遂事件があった。
こういう事からも私自身はAntiFa界隈に不信感を抱いている。
学問や文化を狭量なイデオロギーの型枠にハメようとするノリには同調しかねるのだ。

そんなわけで、今日は私の黒人音楽やカルチャーに対する自由な理解を、思い出話なんかもしつつ進めたいと思う。

過去に知ったこと、最近再びリサーチして知るに至ったことをまとめる。
その結果、私がたどり着く結論は、やっぱり黒人カルチャーは偉大だということ。

人種間の問題であるという認識は根底にありながら、そこには必ず「上下の問題」がある。

Nation of IslamのLouis Farrakhanは、1996年に「この国は貧しい白人、貧しい黒人、貧しいユダヤ人の背中の上に建てられた」と言い、加えて「本当の反ユダヤ主義はロスチャイルドだ」と発した。

この発言の意味するものを追っていきたい。

経済好きで私のブログを読んでくれている人は、知らない黒人の名前がいっぱい出てきて困惑するだろうし、私を監視するAntiFaにとっては格好の攻撃材料になるかもしれない。

私は今も昔もミュージシャンだし、人生の殆どを黒人音楽ととも生きてきた。
2005から2015年くらいまでは黒人音楽から離れ、主に白人音楽を好んできたが。
その私がここ数年、再び黒人音楽に傾倒するようになったのは、世界的なリバイバルが関係する。

以下は、黒人音楽は好きだけど陰謀思想の知識がなかった人、また逆に陰謀思想の知識はあったけど黒人カルチャーにまったく触れてこなかった人にとっては驚きの内容になるだろう。

とにかく、Hip Hopのヤバさを再発見すると思う。


この2つのIce Cubeのツイートを見ていただきたい。
(興奮しすぎの私がやや恥ずかしいが)

 

 


まず、Ice Cubeのことについて話そうと思う。

Ice Cubeは1987年に、LAでDr DreらとNWAを結成。
いわゆるギャングスタラップというジャンルの走りとなった。
リリックの内容は、麻薬と犯罪と人種差別と政治、そして警察批判だった。

差別といっても「人種差別を止めよう」的な生易しいものだけじゃなく、逆差別も含む。
当然、当時のラジオ局では放送禁止扱いで、日本人にとっては眉をしかめたくなる内容だったが、NWAの作品だけで、当時では驚異的な数字となる1000万枚を売り上げた。

私は年齢的に、リアルタイムでNWAは通っておらず、90年代初期のCubeのソロ作から聴きはじめた。
といっても中学生だからリリックの内容などわからないし、音だけ聴いていた感じだ。

N.W.AのStraight Outta Compton(89)というヒット作の和訳つき動画があったので聴いてみてほしい。

 

 

(オリジナルのPVはこちら https://www.youtube.com/watch?v=TMZi25Pq3T8)

NWAの曲にはもっとヤバい曲もあるが、いずれにしても今のコンプラの感覚から言うとアウトだ。
しかし当時の社会進出の機会に恵まれない黒人にとっては、レコード物だけが公に対する自由に開かれた言論空間であった事情もある。
大目に見てもらいたい。

細かい話だが、NWAのDreらはコンプトン(LAの最貧地区)出身だが、Cubeは隣接するサウスセントラル出身だ。
どちらもゲットーと呼ばれる貧困地区で、彼らはそこから政治的メッセージを発信し続けた。

Cubeは89年に金銭トラブルでNWAを辞めるが、Dreのプロダクションは後に2 Pac、SnoopDogg、Eminem、50 Centといった西海岸のスターを輩出する。

Cubeの初ソロ作「AmeriKKKa's Most Wanted」(1990)は、ニューヨークでPublic Enemyのプロダクション「Bomb Squad」と制作した。
実際に楽曲「Endangered Species (Tales from the Darkside)」ではPEのChuck Dが、「I’m Only Out for One Thang」ではFlavor Flavがそれぞれfeatされている。
CubeとPEの関係は、NWAが88年のBring the Noiseツアーを西海岸に招聘した時まで遡る。

PEがCubeのアルバムを制作することになった馴れ初めは、「AmeriKKKa's Most Wanted」の少し前の時期、PEのアルバム「Fear of a Black Planet」('90)に収録された楽曲「Burn Hollywood Burn」にBig Daddy Kaneと共にFeatされたことに始まる。

 

Public Enemy ft. Ice Cube & Big Daddy Kane - Burn Hollywood Burn

 

この曲はハリウッドにおける黒人の扱いを批判する曲で、Big Daddy Kaneは「ハリウッドはもっとSpike Leeみたいな映画を作れよ」とライムしているが、その後の91年にCubeは、Spike Lee監督の「Boyz'n the Hood(91)」で映画デビューすることになる。

この曲に参加した全員がNation of Islam系の信徒でもあった。

AmeriKKKa's Most Wantedの制作時に、CubeはPEに紹介されNation of Islamに入会、強い影響を受けるようになったといわれる。
NOIは1934年にデトロイトで生まれ、60年代のNYで隆盛した新興イスラム教だ。
このアルバムではゲットーの生活に焦点を当て、アメリカの司法制度や人種問題を痛烈に批判した。

2作目の「Death Certificate」(91)は問題作で、特に「The Life Side」と名付けられたアルバム後半部では、白人やユダヤ人、KKK、Nazi、コリアンをディスりまくっててかなり怖い。
イギリスではアルバムから「Black Korea」と「No Vaseline」が削除されたうえで発売されたほどだ。

なぜ白人だけではなくユダヤ人やコリアンまで批判されなければならないのだろうか。
アメリカの黒人とユダヤ人の確執は根深くて、特に東海岸では1900年前後にポグロムを逃れてきた東欧系のアシュケナジーとは生活圏が近かったこともあり、入植当時からたびたび衝突している。

黒人とユダヤ人の問題は多岐にわたるのでまた後で触れるが、公民権運動のスター、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアは以下のように言及している。(抄訳)
私たちがシカゴで働いていたとき、私たちのスラムのアパートで家賃のストライキが何度もありましたが、残念なことに、私たちがストライキを実行しなければならなかったのはユダヤ人の家主に対してでした。

加えて、なぜ西海岸のゲットーに住む一部の黒人達がコリアンを批判するのか、わからない日本人も多いだろう。 
朝鮮戦争以降、アメリカに移住したコリアンは黒人の使用するヘアケア・ウィッグ用品や美容品販売網を牛耳った。
黒人にとっては、固い髪質のNappy Hair(縮れ毛)のセットは重要な問題だ。 
食料品店などとともに、コリアンの作ったヘアケア商品やビューティーサプライ店など、ゲットーに隣接する商店の客の殆どが黒人だったと言われる。
この目につきやすい不公平感、貧富の差から軋轢が生まれたと言われる。

LA暴動は「Bread Riot(パンの暴動)」ともいわれ、下層階級の蜂起でもあった。
略奪に参加した女性は「私の6人の子供全員のために同時に靴を手に入れることができたのは、これが初めてでした」と答えた。
この暴動は、貧しいマイノリティを抑圧し差別する社会に対する彼らの抗議でもあった。

91年、LAのコリアンが営む小売り店で黒人少女が射殺され、白人警官による黒人男性の暴行事件と共に、63名が死亡したロス暴動のきっかけになった。
この時に集中的にコリアンの小売り店が襲われたのには、こういった背景があったともいわれる。
(実際に襲撃による被害の65%がコリアン系商店)

Ice Cubeの「Black Korea」は内容があまりに酷いので詳細は控えるが、「コリアンの店を燃やせ」といった類の曲だった。
暴動の半年前にこのアルバムがリリースされ、アメリカだけで200万枚(世界で500万枚)も売れているのだから、多少なりとも暴動への影響があったことは否定できないだろう。

実際に黒人少女が射殺されたサウスセントラルの韓国人店も暴動の時に焼失している。
実は今年の暴動でもフィラデルフィアで韓国人美容店数十店舗が集中的に襲われているが、この問題が根深いことがわかる。
Cubeはロス暴動の後にこの「Black Korea」について謝罪しているが、彼にとっても最も後悔する過去のひとつだろう。


さて、この問題作「Death Certificate」(91)に収録される2曲で、Dr. Khalid MuhammadというNation of Islamのスポークスマンがポエトリーを披露している。

Khalid Muhammadはアルバム前半の「The Death Side」最後の曲となる「Death」で「冷酷な白人による洗脳を解いてBlack Nationを打ち立てろ。死の淵から復活しろ。立ち上がり目を覚ませ」と発し、後半「The Life Side」の冒頭曲「The Birth」では「黒人こそが平和を築く者であり、その平和を壊す者は殺し、排除するのだ」と扇動する。

この重要な2曲のインタールードに続き、過去のKKKによる黒人虐殺の歴史や現在の黒人の若者の貧困問題に触れ、「Sam(白人)を殺してやりたい」と歌う「I Wanna Kill Sam」が始まる。
衝撃的だ。
22歳の若きCubeは怒りに飲み込まれていた。

ただこれもNation Of Islamの思想をストリート流に再構築する過程における通過点だったと思われる。

比較的ヘイトのない「Doing Dumb Shit」は今聞いてもファンキーでかっこいい。

 

(サムネを見るとわかるけど、ジャケでは、アンクルサム(白人のアメリカの象徴)を葬り去ることを示唆している)


3作目の「The Predator」 (1992)からはだいぶヘイトが減り、商業的成功も頂点に達したが、このアルバムではNation of Islamのアイコン、マルコムXやファラカーンの名が何度も登場する。

冒頭曲の「When Will they Shoot」では反ユダヤ主義だと批判されたことに対して「マルコムXみたいに俺を殺すつもりか?アンクルサムはオーブンを持たないヒトラーだな。俺たち黒人がAK47を手にした理由を理解していない」と痛烈にアンサーしている。
(「オーブン」とはアウシュビッツのガス室や焼却炉のこと)

楽曲「Predator」では「おまえらは俺をイスラム教徒と言う。俺はNOIの一員ではないがそれでもホワイトアメリカを覆すためにファラカーン大統領に投票するね」とライムし、楽曲「Fuck'em」では反ユダヤ主義と言われることについて「知ったことではない」と一蹴、「俺は暴動が起こる前にゲットーで何が起こっているのか警告してきただけだ。これがわからないならアルマゲドンは起こるだろうよ」とスピットした。

極めつけは「Integration 」というインタールード
全編がマルコムとファラカーンの演説で構成され、「差別のない統合されたアメリカ(Integrated America)の理想、マーティン・ルーサー・キングの夢を、あなたは諦めていませんか」と問いかけるファラカーンからのインスピレーションそのままに曲に仕立てている。



さて、これだけではNation of Islamの思想がどういうものなのかいまいちわからないだろう。
というか、Cubeの過激なリリック内容から、恐ろしいカルト教団なのではないかと勘違いする人もいるかもしれない。
その説明は、記事が長くなってきたので次回に譲ろうと思う。

西海岸ではIce Cubeが有名だが、NOI系の思想に影響を受けた、もしくは実際に入信するラッパーは東海岸に極めて多く広がる。
今回、私がやりたいのは、各ラッパーたちのリリックに隠された暗号を読み解いていく作業なので、この記事のシリーズは凄く長くなる。
NasやCommon、FugeesやWu-Tang、Mos Defなどの黄金期のラッパーたちが出てくる。
たぶんヒップホップ好きじゃないとついてこれないだろう(笑)


最後にアルバムThe Predatorから「Check Yo Self」を紹介する。 

Check Yo Self feat. Das FX(Remix)
Remixの方はGrandmaster Flashの「Message」ネタをG Funk風にまとめている。

 

 

時代背景を知らないとこの曲でびっくりできないのだけど、92年から、2PacとBiggyが死ぬ96年くらいまでのあいだ西海岸と東海岸の黒人ギャングは殺し合いをしていた。ヒップホッパーもほとんどが巻き込まれていた。
そのさなかにNY出身のDas FxをFeatすることは極めて珍しいのだ。
Ice CubeにはBlack Nation建設という大きな夢があったため、黒人同士の抗争はくだらないものに見えていたのかもしれない。

ちなみに70年代にHip Hopの礎を築いた3大始祖DJ Kool Herc、Afrika Bambaataa、Grandmaster Flashのうち、バンバータだけがNOIだとされているが、いずれにしてもHip Hopの成立初期からNOIが深く関わっていたことがわかる。

 

ご覧いただきありがとうございました。

ではまた次回。

 

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