数学科4年、講師の山本です。
みなさんウサギとカメの童話をご存じですか?
あの、ウサギがカメに競走をふっかけて、カメの移動速度を考えれば余裕のよっちゃんでウィニングランを為せるはずであるウサギが、なんとまあ負けてしまうというお話ですね。そうそう、ウサギが余裕をぶっこいて競走の途中でぐーすか寝ていたら、いつの間にかカメがゴールしちゃっていたのですよね。そんな傲慢なウサギ故の結果だったわけですが…
それ、ウサギの傲慢さ故の結果ではないのかもしれません。
ただ単純に、カメが「世界最速」だったからかもしれません!?
だってウサギは寝ていたのですから、その間にカメが猛スピードでウサギの横を通り過ぎて行ったのを、見ていなかっただけの可能性もありますよね?(屁理屈)
アキレスと亀のパラドックス
「アキレスと亀のパラドックス」って何?
有名なパラドックスがあります。
それが、「アキレスと亀のパラドックス」です。
どういうものかご紹介させていただきます。
足が速いことで有名な、ギリシャ神話の英雄「アキレス」(アキレス腱の語源となった人物です)。彼は、亀と競争することになりました。その競争の様子をちょっと数学っぽく数直線を使って図示してみます。下の図のように、A点にいるアキレスが、B点にいる亀を追いかけます。しかし、アキレスがB点に着いたときには、亀もゆっくりではあるが動いているはずですよね。ですから、そのとき亀はその先のC点まで動いたとしましょう。またまたアキレスがCに着いたならば亀は今度さらにDまで進みます。このように亀は少しずつ先行して、アキレスは永久に亀に追いつきません。
…もどかしいですね。
別に亀でなくとも、二人の人間の競争に置き換えて考えて考えてよく、そうすると、体育祭のリレーなどは、スタートダッシュが一番早かったチームのことをほかのチームが一生追い越せないという、イカサマのようなゲームになってしまいます。それかスタートダッシュゲーになってしまいますね。
きっとこのパラドックスにはおかしいところがあるに違いない!
でも確かにこのパラドックスに納得させられてしまった!!
う~ん。
でもアキレスと亀が限りなく近づく点はありますよね。
おっと、極限か。極限を使えば何か数学的に考えられそうです。
数学的に考えてみよう
ちょっと具体的に数を置いてみましょう。
〔設定〕
- アキレスは亀の2倍の速さ(時速2km)
- 亀はアキレスの1km前方の地点Bにいる
(先ほどの図の再掲)
アキレスがBまで進むには1/2時間かかります。その間に亀は、アキレスが1km進んだので半分の1/2km進みます。進んだ点はCです。
アキレスがBからCまで進むには、BからCは先ほど亀が進んだ1/2km進めばよいので、1/4時間かかります。その間に亀はアキレスの半分の1/4km動きDまで進みます。
…
このように繰り返します。
「アキレスと亀のパラドックス」では、この動作を何回繰り返してもアキレスは亀に追いつけないという話でしたね。
時間を計算してみると…
しかし、この間の時間を計算すると、4回目までに経過した時間は
1/2+1/4+1/8+1/16=1ー1/16 (∵等比級数の和)
より1/16時間です。
n回目までだと、経過した時間は
1/2+1/4+…+1/2^n=1-1/2^n (∵等比級数の和)
より(1-1/2^n)時間です。
計算からわかること
「アキレスが亀に追いつくことはない」は部分的に正しく部分的に正しくないと言えるでしょう。
どういうことかといいますと、この、「アキレスが亀に追いつくことはない」というのは、n回目までの経過時間が(1-1/2^n)時間であることから、1時間未満における話だとわかります。(1/2^n>0なので。)
つまり、
「1時間未満においてアキレスは亀に追いつかない」という命題は真ですが、
「アキレスは永久に亀に追いつかない」ことの真偽はまだ示していません。
しかしながら、亀にもアキレスにも1時間後の位置があるはずで、1時間後にはアキレスが亀に追いつきます。
これはただの小学生の算数です。
一時間後のそれぞれの位置は
- アキレス:2km地点
- 亀:(1+1=)2km地点
でピッタリ同じ位置にいます。ですので1時間後にちょうどアキレスは亀に追いつきますね。
「…え、めっちゃ簡単じゃん!
なんでパラドックスを信じてしまったんだ…」
と落胆している?不思議がっている?そこのあなた!!
多分、
回数の無限と時間の無限を混同しちゃってる!
「回数の無限」
アキレスがB→C→D…と移動するステップの回数は無限です。
ステップ1、ステップ2、ステップ3、…
これは確かに終わりがありません。
「時間の無限」
ステップの回数が無限でも、それにかかる時間の合計(1/2+1/4+1/8+…)は有限の1に収束します。
その一方で、
「ステップの回数が無限」→「時間も無限にかかる」
と暗黙に思い込んでしまったのが、パラドックを見破ることができなかったミソです。
実は、19世紀前半にコーシーやワイエルシュトラウスなどにより等比級数の収束という概念が数学的に整備され、20世紀初頭にラッセルにより初めて「無限回の操作が有限時間で完了する」ことが厳密に示さるようになりました。
う~ん「無限回の操作が有限時間で完了する」…。無限と有限という言葉が一文に混在していて、文字にするとなんか不思議な感じがしますね!
カメは世界最速なのか?
…残念ながら、そんなロマンティックなことはありません。亀は普通に人間よりもウサギよりも移動速度が遅いですし、ウサギが競走に負けたのはウサギ自身の怠慢以外の何物でもありません。
逆を言えば、そんな「世界最速」などという神がかった才を持っておらずとも、なんならそれとは正反対の性質の者でも、努力次第で自分の才以上の者を打ち負かすことが可能であるということです。
間違っても、ウサギの立場に立って、「アキレスと亀のパラドックスより、俺がお前の何倍努力してもお互いが少しでも継続して一定に頑張っていれば、一生お前のことは追い抜かせない運命なんだよ!だから今回負けたのは仕方ないしお前の何っ倍も努力したんだぞ、すごいだろ」などと言わないほうがいいですね。(誰もそんなこと言わない)
アキレスと亀のパラドックスを鵜吞みにして、数学的な評価をしていない軽率な人、と周りから思われてしまいます。
え?「数学的な評価とか考えて生きたくない」?
…そうですよね、
ではたまにこちらのブログを訪れ、たまに数学的に思考してみることを、たまにでいいので、おすすめします。
わたしが喜ぶので。

