いまから7年余前の真夏のことだが、
まだ若年性認知症と診断される前の妻と、
都内のある駅で電車を降りた。
すると開いた電車の扉の目の前に、
見覚えがある方が立っていた。
5~6年前までお世話になっていた
70代半ばの取引先の社長さんだった。
およそ15年間の付き合いで、
仕事の面だけでなく、
食事やゴルフをご一緒させていただき、
もの凄くお世話になった方だった。
それなのに何故か、
以前のようなリアクションがない。
社長さんは僕らが下りた電車に乗るので、
時間がないのと突然だったため、
言葉が出なかったのかな……と思った。
猛暑の影響もあったかもしれないが、
何だか妙な違和感を覚えてしまった。
その翌月、肺がんが見つかり、
4ヵ月後、訃報に接することとなった。
そして葬儀にお邪魔させていただいた。
それから7年後の昨年末、
社長さんの奥様と食事をすることになった。
そして7年前の違和感の真相がわかった。
がんによる“せん妄”のせいで、
アルツハイマーのような症状が出ていたのだ。
北里大学認知症疾患医療センターの
サイトによると次のような説明があった。
「せん妄とは注意や理解、記憶などの機能が
急性に低下し、変動することを特徴とする状
態を意味します。認知症が慢性に変化するの
とは対照的に、せん妄は急性に生じます。
認知症のある人にも生じますが、認知症と混
同せず診断することが求められます」
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国立がん研究センターによると、
がん入院患者の20~30%にせん妄が見られ、
看取り期に発症率が上昇するという。
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物忘れが気になり受診をしたのだが、
アルツハイマーではなく肺がんだった。
社長さんが診断されたときには、
余命宣告が家族にされたとのこと。
せん妄は認知症だけの症状ではないので、
おかしいと感じたら、早期受診をお勧めする。
のち舟唄……
妻の物忘れが気になり、更年期障害を疑っていたころ、八代亜紀の野外ライブを二人で聴いた。妻が大学病院を受診する約3ヵ月前のことだった。ランチを食べに行った街の駅前で行われた無料ライブは、立錐の余地がないほどの人の多さ。2018年秋のことだった。
昨日の訃報に接し、あのときの写真を引っ張り出してみると、まだ元気だったころの妻が甦ってくる。19時からの予定外のステージを楽しみ、夕食までその街で食べて帰った。妻がオーダーしたのは、浅利ラーメンだった。亡くなった社長さんは、電車でこの街に向かう途中で僕らと会ったのだった……。
▲演歌はもちろん、ジャズ&ブルースもよかった……合掌(keroぴょん撮影)