『KILLER/第一級殺人』(原題:KILLER:A Journal of Murder/1995年アメリカ/91分:G)
監督・脚本:ティム・メトカーフ
原作:トーマス・E・ガディス、ジェームズ・O・ロング『全米メディアが隠し続けた第一級殺人』
製作:ジャネット・ヤン、マーク・レヴィンソン
製作総指揮:オリバー・ストーン、メリンダ・ジェイソン
音楽:グレーム・レヴィル
撮影:ケン・ケルシュ
出演者:ジェームズ・ウッズ、ロバート・ショーン・レナード、カーラ・オブノ、ステーヴ・フォレスト、エレン・グリーン、ロバート・ジョン・バークら
100点満点中66点
実話に基づく作品です。元々CATV用に作成され、当然劇場未公開ですが、重厚な印象です。「カール・パンズラム」と言う大量殺人犯が収監されたカンザス州のレヴェンワース刑務所で、彼と出会った若き看守「ヘンリー・レッサー」がしたためた手記を基に書かれた原作から、作品化された社会派ドラマです。
カール・パンズラム ・・・(1891年6月28日~1930年9月5日)南北アメリカや欧州、アフリカで、少年を含む22人の殺人と強姦、強盗、放火を繰り返し、収監されてもたびたび脱獄した凶悪犯。幼少の頃から自分に厳しい仕打ちをして来た社会に対し、反逆的な心情を持ち、鬱積した感情を爆発させるかのように、少年を強姦殺人したり、周りの人間をいとも簡単に殺害した。同性愛や快楽殺人を好むわけではなかったようで、貯水池に毒を撒こうとしたり、英国軍艦を爆破しようとしたこともあったという。彼の最期は、作業看守を撲殺したことによる“絞首刑”だが、一切の弁護を拒否し、反省も後悔もする事なく実刑を受け入れた。
主演のジェームズ・ウッズが大量殺人犯「カール・パンズラム」役で、異常ともいえる犯罪者を淡々と演じています。陰惨な殺害・強姦シーンは全く無い代わりに、彼の迫真の演技と存在感で、狂気性と残忍さ、反社会性を、“静かに”付きつけてきます。「カール・パンズラム」は、異常者でも狂人でもなく、当時のアメリカ社会が産んだ社会不適合者であって、「パンズラム」本人もそんな自分を持て余し、結局、社会から「姿を消す」方法として、“絞首刑”を自ら選ぶ結末にいたる心情を、匠の俳優ウッズが好演しています。・・・なので、ヴァイオレンス・シーンやリアルな強姦シーンを期待する方々には、物足りなく感じられる内容ですが、この作品のテーマがそういった低俗な位置にない部分が、大いに評価できる点です。
多くの方々が傑作と評する『ショーシャンクの空に』のような予定調和的でエピソード重視の筋立てに違和感のある鑑賞者には、唸るような静かさでこの作品のテーマが胸に染み込んで来るでしょう。
劇中「合法的な自殺」(判決で認められた自殺)という台詞が出てきますが、まさしく、それに至る過程と結末そのものがこの作品のテーマです。「パンズラム」に心的に寄り添う看守「ヘンリー・レッサー」と彼の心の交流が、この重犯罪者の“哀れ”を増幅します。
(あらすじ)
1929年カンザス州レヴェンワース刑務所に、職を得た若き看守「ヘンリー・レッサー」は、新たに収監された囚人の一団の中に、ひときわ反抗的な「カール・パンズラム」を発見する。自ら22人の殺人を口にする「カール」だが、カンザス州は長い事「死刑」を行っていないせいで懲役25年の刑である。
生意気な「カール」は、作業担当看守「ロバート・グライサー」を始めとする数人の看守から、警棒による雨あられのような殴打で、半死半生の状態となってしまう。可哀想に思った「ヘンリー」は彼に1ドル紙幣を渡した。
暫らくして、「カール」は「ヘンリー」にあるお願いをする。
「鉛筆とノートが欲しい。自分が犯してきた犯罪を書き遺したい。書いたものは出版社にでもなんでも持って行って、金に換えても構わないから。」
これをきっかけに、二人の心の交流が始まるが、この独白により、彼の犯罪の歴史を目の当たりにする「ヘンリー」は、愕然とすると同時に、彼の内面に関して、より一層興味を持つようになる。

