冬のカモメ | 酒とホラの日々。

冬のカモメ

この日、空は晴れわたって冬の日差しが明るく照っていたものの、その下では冷たい風が強く吹きつけ、海は暗灰色の水面を不気味に高くうねらせていた。
空はあっけらかんと晴れているものだから、この日も穏やかな天候のうちと勘違いしてしまいそうだったが、実際のところ北風と高い波のどこか不安な落ち着かない気分をもたらすような日だったのである。

そんな寒風の中で海を眺めていたのだけれど、あちらこちらの波の間にカモメが浮かんでいるのが見えた。カモメにしても黒くて荒い海は不安なものだろうが、強い風に飛び立つわけにもいかず、必死で水面にしがみつくように浮かんでいたのかもしれない。

いつもは気楽に見えるカモメもこんな日はさぞ厄介なことだろうなどと思いつつ、しばらく海を眺めているうちに、なんだかカモメと自分と同じような境遇に翻弄されているような気もしてきた。
風当たりの強い世の中で思うように飛び回ることもできず、かといってそんな社会から離れるわけにも行かず、世間の荒波の間に必死で何とか浮かんでいるのはなにもカモメだけのことではない。

がんばれよ、と胸の内でひとこと、カモメにつぶやいて、北風の吹きすさぶ中を帰ってきた。

$酒とホラの日々。-海のかもめ