こんにちは、カンテウムの矢舗です。
今回も曲の紹介の中で、日本の歌の歌唱法について触れていきたいと思います。
今日の曲は、武満徹作詞・作曲の「小さな空」です。
青空みたら 綿のような雲が
悲しみをのせて 飛んでいった
いたずらが過ぎて
叱られて泣いた
子供の頃を憶いだした
夕空みたら 教会の窓の
ステンドグラスが 真赫に燃えてた
いたずらが過ぎて
叱られて泣いた
子供の頃を憶いだした
夜空をみたら 小さな星が
涙のように 光っていた
いたずらが過ぎて
叱られて泣いた
子供の頃を憶いだした
「たとえ離れていても空はつながっている」と言ったりしますが、この詩の中で空は場所だけでなく時間をもつなげています。
強くノスタルジーを誘う良い詩です。
そして、この詩に自身が付けた旋律はまさに「素朴」という言葉がぴったりくるような、非常に普遍的なメロディーです。
そのメロディーはピアノに限らず、様々な楽器で伴奏され親しまれて、近代の曲であるにもかかわらず、すでに「民謡」に昇華されているかのようです。
しかしながらこの「小さな空」、しっかりと歌うとなるとこれがなかなか大変です。
「旋律があまりにも素直で誤魔化しがきかない」からです。
5〜10人程の本当に少数の人に聴いてもらうのでしたら、思うままに歌って何の問題もないのですが、少し会場が大きくなったりすると、声や言葉をしっかりと「届ける」ためにはどうしても多少の「操作」が必要になります。
しかし、あまりに「素朴」な旋律の場合、このような「操作」がどうしても「わざとらしく」聴こえてきてしまいます。
具体的には、こういった歌詞で人を掴める曲はかなり「子音」を立てるのが定石です。
しかしながら、あまりに子音を立ててしまえば当然、メロディーラインは崩れます。
どこまで子音を出すのか・・ 悩ましい問題です。
ですがこの問題を解決するカギもあります。
子音を立てる方法には、「強さ」だけでなく「長さ」という要素もあるのです。もちろん”s”や”n”の子音などのように「長く伸ばせる子音」と、そうでない子音があるので万能の方法ではないのですが・・・
歌い手たちはこのような子音の「技」を見抜かれないよう苦心しながら、この単純素朴な歌をホールで歌っているのです。