ご無沙汰しております。

最近はちょっと、剣道にはまっています(見るほう)。

長いこと興味を持てずにいたのですけれど

ひとたび見始めると、結構おもしろいと思います。


実は、父方の祖父が範士だったそうで

父も父の兄弟も、いとこたちも剣道をやっていたそうです。

「そうです」というのは、黙々と農作業に励む父の姿しか知らなかったし

いとこたちとは、お盆やお正月に顔を合わせるだけでしたから。

そんな、剣道に縁の薄い環境にいた私は、興味が無かっただけでなく

「剣道なんて現代人のやるものではない」と思い込んでいました。

この、とっても失礼な思い込みの、原因の一端は祖父にもあります。


いとこたちと同様、お盆やお正月に顔を合わせるだけの祖父は

ツルツル頭に真っ白なお髭をモジャモジャにたくわえた

浮世離れした風貌だったので

同じ人間とは思えない(じいちゃんゴメン!)遠い存在でした。


祖父の思い出をひとつあげるなら、食事の風景です。

もぐもぐと噛むたびにお髭がワサワサ動いて

すごく面白かった。

極め付けはお味噌汁を飲むときです。

お箸で、具ではなくお髭を抑えながら飲んでいました。

抑えないと、お髭がお椀の中に入っちゃうもんね。

仙人様は、お食事のしかたも浮世離れしているのです。

どうしてお髭はモジャモジャなのに、頭はツルツルなの?

と、尋ねてみたかったなあ。

もちろん、本当に尋ねたりはしませんでした。

仙人様にそんな失礼なことは言えないと

幼いながらに理解していましたから。

(重ね重ね、じいちゃんゴメン)


「剣道っていうのは、ああいう、仙人様がするもんなのよ。」

これが、幼く無知だった私の言い分でした。

もちろん、実際に言葉に出して言いはしませんでした。

言ったら、こっぴどく怒られるだろうと

そのへんの空気は読んでいましたから。


祖父の思い出をもうひとつあげるなら

稽古場に連れて行ってくれたことです。

「剣道、見てみたいか?」と聞かれ

つい頷いてしまった私を(見たくないなんて、言えませんからぁ!!)

連れて行ってくれたのです。

正直、稽古場までの道のりも、稽古中の出来事も

ほとんど記憶に残っていません。

ただ、往復の道のり(仙人様と二人きり)がとても遠かったことと

道々、祖父がぶっきらぼうながらも優しい言葉をかけてくれたことと

私が仙人様の孫だということで、稽古場での待遇がとてもよかったことと

板の間に正座して見学しながら

地味なことやってるなあ(をいっ!!)と思ったことなどは覚えています。

結構覚えてるじゃん、私。


私が剣道を見たいという意思表示をしたことが

祖父はきっと嬉しかったのだと思います。

でも、それ以上には興味を持てないまま

長い時間が過ぎてしまいました。

本当に、じいちゃんゴメン。

今さらですが、昔の剣道の動画を見たりしています。



この動画がアップロードされてからさらに7年経過していますので

実際には60年くらい前になるのでしょうか。

いくつかツッこみたい所はありますが、それはさておき

祖父もこんなふうにやっていたのかな、なんてことを思うと

若干感傷的な気分になります。

祖父が亡くなってもう30年以上たつので、本当に、今さらです。


朝晩はやや涼しくなってきて、季節はそろそろスポーツの秋。

ちょっとだけ祖父に敬意を表しつつ、剣道を愛でたいと思います。




illustrated by AkihisaSawada