今まで公にしなかった事ー2 | NPOニホンオオカミを探す会『井戸端会議』

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1月中旬にインフルエンザA型に疾患して5週目になりますが、思ったように体力回復が為らず、山中のカメラメンテナンスも滞っています。
ただ、イヌの散歩だけは欠かすことが出来ず、その日の体調に応じたやり方をしているのですが、最近幾つかの散歩ヵ所で、下記の張り紙を見掛ける機会が有りました。
こうした事は然程珍しい事では無いので、余り気に留める事はありませんでしたが、或る日荒川の土手で、探し主とお会いして詳細を伺えましたので、皆さんにお知らせ致します。

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探し主の山口さんー090-8346-5017です
 
昨年4月に行方不明となり、情報が届く都度そこまで足を運んで探す・・・私のオオカミ探しと重なり、とても他人事とは思えなくなったのです。
本年2月4日(月)に鶴ヶ島市の運動公園で見かけた人が有り、40代の娘さんが黒のプードルを、そのお母さんが当該のイヌを散歩していて、はっきり保護イヌと申したそうです。
情報提供者は母娘の居住先を聞いたらしいのですが、失念してしまったそうで、運動公園からは車で2030分の距離らしいです。
私としては、飼いイヌが1時間でも行方不明になれば気が狂ったように探すのですが、それを11ヶ月近くも続けているのです。
どんな小さな情報でも、連絡先までお知らせ戴ければと思います。

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鶴ヶ島市運動公園略図

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圏央道鶴ヶ島インター近くです
 
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さて、ここからが前回の続きとなります。
【距離が思いの他有った為、間違いなくその動物であると確認できるまで・・・時間にしたら数秒の事だったのだが、・・・そのもどかしさと言ったら無かった。
道路に出てから少しだけ私の方に向って来たのだが、私の車を確認した動物は左足から右足に重心を変えて、私の進行方向である緩やかな下り坂を急ぐともなくトロットで歩いて行った。
沢沿いに続く林道を40~50メートル経ると直角に近いカーブが有り、その角はまるで御伽噺のこぶとり爺さんに出てくる瘤のようになっている。
瘤の中に入ってこちらを見ながら、車をやり過ごそうとしている動物の前に車を止めて、私は窓から身を乗り出した状態で、続けざまに4回シャッターを押した。

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瘤の中で私を見ている秩父野犬
 
動物の後ろには地元の林業事務所の看板が設置されており、プロポーションを知る上ではお誂えむきとも言うべき状態の場所であった。
ストロボ連動にセットされてはいたが、2回目のストロボは作動せず、もう少し近づいて写そうとドアーに手を触れた時、動物は瘤の外に出て下り始めた。
先程カメラを取り出した時、接写用の50㍉マクロレンズから250㍉の望遠レンズに変えておくべきだったのだが、慌てていたためセットされたままの状態で取り出して、ストロボを付けていただけだったのである。
 
瘤の先からは切り立った崖の為かガードレールが施設されている。
瘤の外に出てから2回程シャッターを押すと、車をガードレールぎりぎりに止めて私は動物の行く手を遮った。
すると敵意を見せるでもなく踵を変えて、何度か行ったり来たりを繰り返したので、動物に合わせて車を移動させながら、その後13回のシャッターを押す事となった。

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瘤から出たばかりの秩父野犬

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ストロボが作動しなかった際の写真

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行く手を遮られ戻った際の右側面写真

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同じく右側面からの秩父野犬
 
今までのプロセスで絶対に襲われる事が無いと確信した私は、直角に近いカーブの手前に戻った時、運転しながらつまんでいた煎餅を片手に、どんな行動をとるか興味を持ち、思い切って車の外に出てみる事にした。
動物は私との距離を測りながらガードラインを保ちつつ、かといって逃げる様子を見せるのでも無く、差し出した煎餅にも全く興味を持つ事無く、言わば“困った素振り”を続けていた。
出来るなら体に触れてみたいとも思ったが、数十分前一度諦めた事でもあり、これ以上を望む事は動物を困らせるだけと思い直し、車とガードレールの間を開けて進む道を作ってやると、私からの束縛を逃れた動物は、一度も後ろを振り返る事無く林道を意のままに下って行った。

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秩父野犬を鑑定する際に重要な写真

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科博の全身骨格を透写するとご覧の通り

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極々接近して撮影した写真―1

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極々接近して撮影した写真―2
 
多くの満足感を得た私は、少し距離を作って付いて行ったのだが、3個目のカーブの左側に有る細い山道に迷う事無く入って行った。
一番初めに遭遇した場所は眼と鼻の先で、これ以上深追いしなくても今度また来た時に遭えるような気がして、私は車の中で動物の後姿を見送っていた。
最初の出会いから後姿を見送るまでの凝縮された時間は、夢の中の出来事の様であり、大袈裟に言うならば私の人生を変えた30分だった。

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細い山道に消えて行った
 
全てが予期せぬ出来事だった為、ライデン自然史博物館に有るタイプ標本の動物と思われる2頭の撮影は逃したものの、長い事求めていた動物の写真撮影に成功した私は、ニホンオオカミ研究の第一人者、今泉吉典博士に19枚全ての写真と書簡をお送りし判断を仰ぐ事とした。
今までにも秩父市内の毛皮、幾多の頭骨等で教えを戴いており、私たち民間研究者にとって博士はシンボル的存在の学者だったのだ。

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今泉吉典博士
 
『多忙の所大変恐縮ですが、1996年10月14日(月曜日)PM4:00~4:30の間、秩父山中にて、写真のイヌ科動物に遭遇致しました。
そのときの天候は雨です。
声は全く発生しませんでしたので、鳴き声等は不明ですが、幸運にも写真撮影が出来ましたのでお送りする次第です。 
 
まさか・・・とは思いますが、ヒョットすると・・・とも思えます。
大きさは柴犬よりも大きく秋田犬よりも小さい。
紀州犬位でした。
雨中でしたので、全てフラッシュ使用です。 
はるか昔、斎藤弘吉先生が、奥多摩山中でつかまえて、少しの間飼育した犬科動物が、多分同一地域と考えられますので、もしかしたらとは思いますが、今泉先生の所見をお願い致したく、送付する次第です。
次から次へと難題ばかり、お願い致しまして大変恐縮ですが、宜しくお願い申し上げます。
今泉先生     1996年 10月26日   八木  博 』 
 
待ちに待った博士からの手紙が私の元に届いたのは 月を一つ跨いだ12月2日のことであった。
博士からの書簡は、私の撮った写真の動物を“秩父野犬”と仮称し、ライデンのタイプ標本との比較をしつつ12点の類似点を例示、秩父野犬とは何であるか?との導き方をされていた。
タイプ標本と写真での比較を行なった上で、今泉博士の目にピッタリ一致すると思えたのはどの様な点なのか?原文のまま記して見る事にする。

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ライデンのタイプ標本
 
八木  
拝復 雑用に負われて10月13日に頂いた御手紙と頭骨写真のお礼も未だ申し上げていない所に、今度は秩父の山中で10月14日に撮影された貴重な野犬の生態写真を見せて頂き、お礼を早く出さねばと思うものの迂闊に返事が書けなくなって困りました。
というのは写真の「秩父野犬」がニホンオオカミのタイプ標本(ライデン自然史博物館の夏毛)にそっくりなのですが、頸に首輪を吐けていたような毛並みの乱れがあり、人をあまり恐れていないようにも見えるので、噂のように狼とハスキー犬等の雑種「狼犬」を誰かが放したのかも知れないと心配になって来たからです。
 
しかし「狼犬」に「秩父野犬」のような耳介の短く丸い個体が現れるものでしょうか。
その可能性は低いとしか思えませんが、そうすると「秩父野犬」はニホンオオカミの生き残りということになってしまいます。
雉鳩その他の野鳥や狸のようにニホンオオカミも人を恐れなくなってのこのこ人里に出てきたのでしょうか。
「狼犬」を除いて考えれば、「秩父野犬」は二ホンオオカミ-Canishodophilax-のタイプ標本(ライデンの自然史博物館所蔵の夏毛の本剥製)に酷似していて相違点が私には全くみつかりません。

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愛知県在住・鈴木さん飼育の狼犬
 
タイプ標本にぴったり一致するのは
(1)耳介が短く前に倒しても目に届かないこと(大陸オオカミCanis  lupusは耳介が長く前に倒すと目に達する)。
(2)前肢が短く体高率(体高/体長×100)が約50%(写真13)に過ぎないと思われること(タイプは48,5%。大陸オオカミは体高率が高く、ソウル昌慶苑飼育のチベットオオカミCanisl,chancoの写真では約62%、Brown,1983が調べたメキシコオオカミC,l,baileyiのそれは65,7-71,4%)。
(3)耳介の前に始まり下顎に達する長毛の塊(頬髭)があること(この特徴はBrownが初めて指摘したものでタイプにこれがあることは写真で確認。頬髭は日本犬やデインゴにはない。しかし大陸オオカミには顕著な頬髭がある)。
(4)胸と腰の上半分を覆う毛は胴下面の毛より長いマントを形成するが、この部分の毛は基部が灰色で先1/3だけ黒いため霜降り状を呈すること(普通の犬にはマントがない。しかし大陸オオカミにはある)。
(5)背筋には先1/2以上が黒色の更に長く、且つやや逆立った毛で形成された黒帯があり、その外縁が肩甲骨の後縁に沿って下降し菱形班を形成すること(普通の犬には黒帯がない。大陸オオカミには時に見られる)。
(6)尾の上面基方1/3にはスミレ腺の存在を示す黒班があること(写真16。Brownによると犬にはない。大陸オオカミにはある)。
(7)尾端が黒いこと。
(8)耳介の後面と頸側(写真17)及び前肢外面(写真7)には先の黒い毛が殆どなく鮮やかな橙赤色を呈し、灰色のマント部に対照する二色性を示すこと(二色性は犬や大陸狼では稀)。
(9)前肢全面、腕関節の上方に暗色班があること(写真7,9,17。犬では稀、大陸オオカミでは約半数に現れる)。
(10)目の周りに鮮明な淡色班がなく特に四つ目でないこと(大陸オオカミでは殆ど常に明瞭な淡色班があり、しばしば四つ目を形成する)。
(11)顔に額段(ストップ)がなく、吻が前頭部に対してしゃくれていない。このため吻上面に接する平面が目の上と耳孔より上の耳介前縁基部を通る(写真8,大陸オオカミには軽度の額段があり、吻上面が前頭部に対してしゃくれていて、吻上面に接する平面が目と耳孔を通る)。
(12)足底(前後足の地に接する部分)は中度の楕円形のようである(タイプでは計測不能であったが、ロンドンの鷲家口標本では前足が55×74ミリ、後足が46×60ミリであった。大陸オオカミはもっと細長いようである)。

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136781011・の識別点

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2459・の識別点

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(写真1812・の識別点
 
「秩父野犬」に見られた以上12の形質は全てニホンオオカミのタイプ標本に一致するが、大陸オオカミとはこのうちの1,2,8,10,11,12,が違い、日本犬やデインゴに似た犬とは1,3,4,5,6,8,9,11,12が違う。
したがって「秩父野犬」の形態は二ホンオオカミに最も近いと断定できる。
さらに「秩父野犬」の耳介は外縁が耳嚢bursa上方で強く前方に屈曲し、先端部が丸い(写真9,10,19)が、これは耳介の外縁の曲がりが弱く先が尖った日本犬や大陸オオカミとは顕著に違う特徴だと思います。
これに似たオオカミは私が別種と考えている北極オオカミCanis arctos(全身白色)と二ホンオオカミ(秩父の毛皮)しかないようです。

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頭骨から紐解くニホンオオカミの特徴
 
ただ残念なのはニホンオオカミのタイプ標本でこの点を確認していないことです。
二ホンオオカミは大陸オオカミに近縁な動物でその亜種に過ぎないと長い間考えられて来ましたが、どうやら全く別の種のようです。
しかし「秩父野犬」も冬毛になればオオカミらしい姿になるのではないでしょうか。
なお「秩父野犬」の左右両足には狼爪がありますが、紀州犬の80%には狼爪がある(太田、1980)そうですから、これは残念ながら識別形質と見なすわけには参りません。
もっと詳しい報告を書きかけていたのですが突然週刊誌においかけられ、慌てて要点のみ御報告することにしました。
不完全ですがお許し下さい。 
「秩父野犬」の正体はともかく、ハスキー紛いの狼犬ではなく二ホンオオカミの生き残りの可能性がある貴重な動物であることだけは確かです。
この正体は今後の調査によってしか解明されないでしょう。
調査と保護に全力をつくされるよう期待しています。         敬具          
 1996年11月29日       今泉  吉典