スペクタクルリーディング「バイオーム」
東京建物ブリリアホール




【あらすじ】
その家の男の子はいつも夜の庭に抜け出し、大きなクロマツの下で待っていた。フクロウの声を聴くために...。男の子ルイの父に家族を顧みるいとまはなく、心のバランスを欠いた母は怪しげなセラピーに逃避して、息子の問題行動の奥深くにある何かには気づかない。政治家一族の家長としてルイを抑圧する祖父、いわくありげな老家政婦、その息子の庭師。力を持つことに腐心する人間たちの様々な思惑がうずまく庭で、古いクロマツの樹下に、ルイは聴く。悩み続ける人間たちの恐ろしい声とそれを見下ろす木々や鳥の、もう一つの話し声を...。




スペクタクルリーディングとは なんぞや?
好みのドロドロしたあらすじと
勘九郎と花總まりと成河が出演するので 行ってみた。




朗読劇の部分は ト書きも読み上げるので わかりやすい。
舞台は「人間の世界」と「生物群系(バイオーム)の世界」
役者は全員が二役。 世界によってそれぞれの役がついている。ドロドロした人間の世界でのストーリーを補うように植物の世界のストーリーが絡む。
足がない植物たちの芝居は スタンドマイクの朗読劇となる。





政治家一家の家長 克人(野添義弘)は 血統書をもつ息子より娘 怜子(花總まり)に「立派な」婿を取ったほうが繁栄するのではないかと考える。それによって「立派な」形だけの婿 学(成河)と夫婦になった娘は愛が得られず 精神状態が崩壊してゆく。授かった子供 ルイ(中村勘九郎)は発達障害で淋しさからか 二重人格のように頭の中のもう一人の人格(ケイ)と生きる。政治家の庭には大きなクロマツがあり 長年仕えている家政婦 ふき(麻実れい)の息子が庭師 (古川雄大)として管理している。不倫をしている婿へのあてつけで 娘も庭師と関係を持つ。発達障害の息子も施設に入所の話が持ち上がり 木に上りつめ…朝日を見て落ちる。ドロドロとなった政治家一家は おかしくなった娘が樹齢200年のクロマツを伐採し農薬を飲む。
政治家一家は崩壊し 庭の植木たちも掘り返されたが 切り株となったクロマツは「私達は感情は持たない」といい それぞれ再生を始める。






ラスト40分あたりから クロマツの独白が占める。
過去の出来事を時系列に家政婦が話し始めるが ひとつ聞き逃すとわからない。発達障害の息子が「どの木」へ上っていったかわからなくなってしまった。「世界一背が高い木」のセコイアだったか 「マザー」のクロマツだったか…
人間の役と植物の役がリンクしていると勝手に解釈していたが そうではなかったようだ。
愚かな娘は クロマツの子どもの芽となっていた。
この世に居なくなった息子は 愚かな娘の演じる純粋なクロマツの芽と手を繋ぎ バイオームの世界へ旅立つ。





始終8才の男子と女子を演じた勘九郎。違和感はない。さすがなんでもこなす歌舞伎役者。この人の芝居が 家政婦とクロマツをさらに際立たす。カーテンコールでは 歌舞伎役者らしく科(シナ)をつくって退場。






花ちゃんもいつもの女王さまと違うが 政治家の奥様。どことなく気品漂うが その内面をさらけ出す芝居がものすごくエグい。不倫に対して不倫してやったぜ。
「昨日と今日ならどっちの種かわからないでしょう?」 すこしキワドイ。





成河の婿養子は 典型的な婿養子。自分の出世と自分の人生だけを見ている。妻や息子に適当な相槌を打つクズっぷり。





そして 
家政婦のふき、クロマツの麻実れい。




ものすごい存在感。
ふざけて言うなら 劇団つきかげの月影千草か…
どこかで観た感じがしたら 一路真輝女史がすでに演られていた。
どちらも威厳がある。




バイオームのコア。クロマツ。
政治家一族を昔から支える家政婦のふき。「レベッカ」のダンヴァース夫人のように淡々と取り仕切る。
気配を感じて振り返ると 真後ろに立っているような…。
この動きの少ないスペクタクルリーディングだからこそ
映える。あ…? スペクタクルって…なんだ?
検索すると「視覚的に強い印象を与えるような大掛かりな場面や出し物のことの意味」とあるが 違うスペクタクルだろうか…

さて 話を戻そう。
これこそオーラだろう。
恐るべしターコさん。




宝塚現役時代は 知的なお顔立ちのためクールでニヒルな役どころが多かったので どうも好きになれなかった。
しかしこのクロマツは はまり役。
さすが 元宝塚歌劇人気の脚本家 上田久美子。
序章では男らしい本だと思ったが なんのなんの 中盤以降の女性らしい繊細な組立て。

 


グチャグチャになってきた 1幕後半は "もちろん" 風間ってしまったが 花ちゃんをお姫様だっこで退場する古川雄大…
「シシィとトートか?」のあたりは 目が覚めた。





今回のお席は S列なので 後列から3列前。
休憩時間に後ろの方のおしゃべりが耳に入った。
「評判悪い劇場だけど うしろでも見にくいことないよね? どこの席が見にくいんだろね」
と お話しているが「上の階の手すりが邪魔らしいですよ」と頭の中でお返事した。
今まで手すりが邪魔になったことはないが ブリリアホールの芝居は少し躊躇する。音響云々はそこまでうるさくないが 見切れが多いとすぐ寝るから…。





そういえば 
ダブルカーテンコールで一番に立ってしまった。
「おっと…早かったか」と思ったけど 風間ってないとき とても素晴らしかったのは間違いなかったので
「ダブルでいいや!」と立ってしまった。
隣の席の人が「あなた寝てたのに一番に立つ?」って顔で見上げてた。