日経ビジネスのシリーズです。
最近、かなりTwitterにはまりつつあります。
秒単位で人の思考を検索できる
DGインキュベーション投資・事業開発本部マネージャー・枝 洋樹氏
過去5回にわたって、新ウェブサービス「Twitter (ツイッター)」について、ジャーナリストやメディア関係者、企業経営者といったインタビューを通じて、社会に与えるインパクトを考察してきた。
最終回は、日本にTwitterを持ってきた張本人に、サービス開始から今後の展開までを聞く。ネットビジネス支援のデジタルガレージで、ベンチャー企業の発掘や育成などの分野を担当している枝洋樹氏だ。
NBO 「Twitter (ツイッター)」は、現時点で英語版以外には日本語版しかありません。日本市場の開拓に力を入れているように感じます。
枝 洋樹(以下、枝) 日本語版のサービスが始まったのは2008年4月ですが、その前から日本からTwitterへのトラフィックが多くありました。2006年に英語版でサービスが始まった時から、日本語でつぶやくことはできたんですよ。若干バグもあったようですが、回避するノウハウをみんなでシェアして使い込んでいったようです。
めざとい日本のアーリーアダプターたちは、世界でも比較的最初の利用者でした。2008年2月時点で、米国のユーザーが全体の4割いて、それに次ぐのが日本。4分の1ぐらいを占めていたようです。
だから米ツイッターに「日本語版をやろうよ」と申し込んでも、話は比較的スムーズでした。2008年1月の出資と同時に業務提携して「日本語版の開発を一緒にやりましょう」みたいな感じで始まったんですね。
NBO Twitterに目をつけられたきっかけは何だったのですか?
枝 毎年3月に米テキサス州でメディアとアートを取り上げるコンファレンス「サウス・バイ・サウスウエスト(South by Southwest、SXSW)」が開かれます。2007年のSXSWで、Twitterを使って会場のプラズマディスプレーに参加者のつぶやきをリアルタイムで表示するという試みを仕掛けました。これが話題になったようで、1日のつぶやきが2万から6万に急増したそうなんです。これは、面白そうだなと。
当時はTwitterだけでなくて、「jaiku(ジェイク)」など似たようなウェブサービスが出てきていたのは確かです。とは言っても、Twitterが一番有望そうでした。結局、半年以上かかって業務提携の発表に至りました。
Twitterは「俳句」の世界観
NBO いくつか似たサービスがある中で、Twitterに可能性を感じたのはどの点でしょうか。
枝 それは、Twitter的なサービスが日本で流行るかどうかという観点ですね。盛り上がるだろうということは、直感です。いわゆる「緩いコミュニケーション」と言ってしまえば簡単ですけど、140字という制限された文字数で、それほど気兼ねしなくていい、ぎすぎすしない関係性がウェブのシステム上で成り立っている。掲示板でもなく、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でもない、中間のようなメッセージのシステムみたいなもの。これは、日本人の感覚に合うだろうと思いました。
あとは俳句。あれって結局、つぶやきみたいなものですよね。自己満足と言うと変ですけれども、何かを見て、自分の思いを五・七・五にしたためて、それを発表はするんだけれども・・・。
NBO まさにつぶやくという感じ。
枝 誰かに読んでもらいたいけれど、読んでもらわなくてもいいみたいな、そういうメンタリティーって何となく日本人に根差しているような気がして、そういう感覚ですかね。
NBO 日本で展開を始めてから、どのような取り組みを進めているのですか。
枝 サーバーや開発などの運営自体は米国です。日本はユーザーを増やす。分かりやすい例では、2008年夏にCEO(最高経営責任者)のエヴァン・ウィリアムズが来日した時に、日本のユーザーを集めて意見交換会を実施しました。また、Twitterのユーザーオフ会に出席してアピールするといった活動もしています。
NBO 朝日新聞や読売新聞が早くからTwitterで記事を紹介したり、評論家の勝間和代さんが取り上げるなど、ここに来て盛り上がってきている感があります。
枝 自分の身の回りで使う人がいた方が「使おうか」という気になるじゃないですか。今は、クリティカルマスを超える入り口にようやく来ているかなという感じですよね。
枝 そもそも「Twitterって何」という説明から始めないといけないのと、「Twitterって、ああ、何かテレビでやっていたとか、雑誌で読んだとか」というベースがあって話をするのとでは全く違います。古くから使っている人にしてみれば、飲み屋でたまたま隣にいた人がTwitterを使っていたということがすごい新鮮で、そこまで人が増えているんだと実感する。
NBO 私もこの前、ランチを食べていたら、隣の席で大学生3人組がiPhone(アイフォーン)を「お前まだTwitter、やってないの」みたい会話をしていて。
枝 そうですか。
NBO 1人が「Twitterってつまらないんだよ。友達同士の会話が噛み合ってなくね」と言うと、「それはそうだよ、つぶやきなんだから」と教えている。
枝 認知されてくるにつれて、だんだん正のスパイラルに入ってくるので、それがユーザーがユーザーを呼ぶみたいな感じになってきているのかなと思いますね。この勢いを加速して、もっともっとユーザーを増やしたい(編集部注:調査会社ネットレイティングスによると、1月に20万人だったTwitterの利用者数は、6月には78万3000人となっている)。
今は収益モデルより、ユーザー拡大
NBO 一方で、多くの人が気にしているのが、Twitterのビジネスモデルです。どうやって収益を出していくのか。
枝 回答が難しい質問ですね・・・。売り上げはこれから立てますから。今のフェーズとしては、まだユーザーを増やすというところです。特に日本はもっともっとユーザーを増やしていきます。
米本社の方針として言っているのは、現時点で無料で提供しているサービスを途中からお金を取りますみたいなことはしないでしょう。それ以外の分野、例えば企業ユーザーであれば、フォロワー数の推移を時系列で調べたり、特定の日時に自動的につぶやきを流したりといった管理ツールのニーズが考えられるでしょう。そういうツールを有償で販売する可能性はあると思いますけどね。
あとは、Twitterの検索機能と連動した新しい有償サービスの開発ですかね。ただ誤解していただきたくないのは、今申し上げているのは、あくまでも可能性でしかなく、何も決まっていません。
NBO 「YouTube(ユーチューブ)」のように、一定の基盤を作り上げたら売却するという選択肢も当然ありますね。
枝 そうですね。ただやっぱりビジネスをちゃんと回し出して、事業として成立させるまではやるんじゃないかなという気はしますけどね。そこがやっぱり面白い部分でもあるので。
「ぴくぴく動く」が候補名だった
NBO Twitterの核になる人物として思い浮かぶのはエヴァン・ウィリアムズ氏と、エンジニアであるジャック・ドージー氏です。
枝 もともとはエヴァンが創業した米オデオというポッドキャスティング(ウェブのデータ配信)を手がける会社で、ジャックが働いていました。
ジャックがTwitterの構想を思いついたのは2001年ぐらいだそうです。その頃、彼は救急車とかバイク便とかを問い合わせに応じて効率よく配車するシステムの開発に携わっていました。この時に、「リアルタイムでメッセージをルーティングするシステム」という構想を思いつきました。
救急車であれば「今、患者を乗せて病院に向かっている」といった状況をリアルタイムに把握する必要があります。同じようなシステムを一般の人たちが使えるようになったらどうなるかなというところから、Twitterは始まっているみたいですね。ジャックは「Twitterは当時のコンセプトと変わってない」と言っていますね。
ただ、大量のデータをリアルタイムにやり取りする技術がインターネットでは実現していなかった。そのための要素技術が出揃うまでに5年ぐらいかかったというわけです。
ジャックのアイデアに、エヴァンも直感的には賛同しました。エヴァンは、ブログ作成サービス「Blogger(ブロガー)」の共同設立者であり、先見の明があります。
ただ、オデオの本業とは違う。このため、社内では開発に異論もあったようです。そこで、エヴァンはジャックを含めて2人のエンジニアという、最小限のリソースで立ち上げることになりました。やってみようと決断したのはエヴァンだったわけですね。
NBO それはいつ頃ですか。
枝 2006年3月です。プロトタイプは2~3週間でできています。これがジャックが最初に書いたメモ。ステータスと書いて、窓があって、でも今の画面イメージに似ているじゃないですか。当時のモックアップというか、紙の上に書いたものですね。
枝 Twitterは、すべてのメッセージをいったん受けて、それをしかるべき人たちに配信し直しています。メッセージングルーターの役割です。ここでは検索エンジンのように散らばっている情報を一生懸命かき集めてきて、整理して見せるというプロセスが不要になります。
NBO 膨大な量のメッセージを管理するから、運用が大変ですね。だから、サービスが止まることも起き得る・・・。
枝 技術的にはすごく難しいチャレンジをしていたわけですね。ただようやくどうやっていけばいいかという方策は見い出したようです。ユーザーは増えていますけれども、前ほど障害が起きない状況になっています。
NBO こうして立ち上げたTwitterがヒットしたので、こちらに主軸を移していこうと。
枝 そうですね。オデオからスピンアウトして、2007年5月に米ツイッターとして会社が設立しました。ジャックによると、着信時にケータイがブルブル震えることをイメージして、最初は「Twitch(=ぴくぴく動く)」というサービス名が思い浮かんだそうです。でも、しっくりと来なかった。でも「Tw」で始める名前にしたく、辞書を引いたところ、Twitter(=ぺちゃくちゃしゃべる)に行き当たったということらしいです。
NBO ちなみに、2人はどんな性格なのでしょうか。
枝 ジャックは非常におとなしい、寡黙なエンジニアタイプですね。朴訥(ぼくとつ)としたと言うか。そういう点では、エヴァンも同じですね。エヴァンも決して口数が多くない。
NBO やり手の経営者という感じではなく。
枝 エヴァンの場合はBloggerですでに一旗あげているという実績がありますが、会ってみると非常に静かですよ。それよりも、ジャックの方がもっと静か。2人は似たタイプですね。
Twitterは「エコシステム」である
NBO 米国でTwitterが注目を集めたのは、バラク・オバマ米大統領が活用したからだという話を聞きました。
枝 傾向として、ほかのサービスよりも口コミのパワーがすごく、影響力があるとは思います。1人の人が何か面白いことを言うと、それがどんどん口づてに広まって、しかも1人が2人に教えたら、ねずみ算式に増えていく。こういう“拡声効果”とが、Twitterの特徴ですね。
Twitterの特徴で、これまでのコミュニケーションメディアとの違いを説明すると、対象が特定少数か不特定多数か、頻度が低いか高かでプロットすると、こうなります
枝 ケータイって、基本は1人に対してですよね。そんなにしょっちゅうはしませんね。メールは同報にすれば何人かに送れますが、やはり頻度は高くない。インスタントメッセンジャーは特定少数だけど、頻度が高くなります。ブログは基本オープンなので不特定多数に向けていますが、更新する頻度は低いと。せいぜい頑張っても1日1本だし、多くの人はそれ未満ですね。
Twitterというのは不特定多数に対してすごい頻度で、情報を発信できるというので、それがさっき言ったクチコミの拡声効果を生んでいる。
NBO しかも140文字という制限で、気軽に書けるので、頻度が高くなるような気がしますね。
枝 もちろん、そうです。タイトルもありませんから、いろいろ考えなくていい。ブログだったら、まずタイトルをどうしようとか、ネタはどうしようとか、起承転結を何で落とそうとか。そんなの何も考えなくてよくて、一言で思っていることを伝えられます。
NBO 拡声効果としては、RT(ほかの人のつぶやきを配信する)みたいな機能もありますね。
枝 RTは、実はまだ正式な機能ではないんですよ。RTはユーザーの文化であって、Twitterが何かしているわけではないんです。これが、Twitterの面白いところなのです。
NBO でも、iPhoneやケータイで利用できるTwitter関連ソフトには、装備されています。
枝 あれは他社が作っている製品です。TwitterはAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース、技術仕様)を公開しており、自由にTwitter関連ソフトを作って構いません。そこでユーザーの声に敏感な会社は、RTという文化がユーザーの間でよく使われ出していると思ったら、すぐにその機能を入れるわけです。だけれども、米本社が開発しているウェブでは、まだRTは採用されていない(編集部注:後日、RTが正式な機能として取り込むことを米ツイッターが発表した)。
これがまさにツイッターの姿勢です。自分たちだけで独占するつもりはなくて、オープンマインド。むしろ他社がTwitterを土台にして、便利なものを作ってくれることを推奨している。ユーザーの動向を他社の開発者の方々が先行してかぎ取ってくれて、他社がRTの機能を追加することで、RTの文化がもっと活性化していく。
「エコシステム」と米本社では呼んでいます。自分たちと、ユーザーと、他社の開発者が三位一体となって、サービスとしてよりよいものが自然に作られていくと。
@付きで送っておく(特定の個人に向けてつぶやく機能)のも、最初はユーザーが始めた「お約束」でした。今はそれを実装しています。みんなが検索しやすいようにハッシュタグとキーワードを組み合わせる記入ルールも、別にTwitterが「こうしてください」と強制したわけではなく、自然発生的に生まれたんですね。
NBO 逆に、なくなってしまった機能もあるんでしょうね。
枝 例えばしばらくつぶやかない人に、「そろそろ何かしゃべろうよ」と促す機能があったんですけど、今はないと思います。基本は同じですが、使い勝手をよくするようなちょっとした機能に関しては、どんどん新陳代謝をしています。
NBO ビジネスを考えると、APIを非公開にして独占状態にし、開発したい他社とはライセンス契約を結ぶという手もあります。
枝 エヴァンが言っていました。「オープンにできるものはしていくのが、ウェブ業界では自然な流れだよ。APIを公開することに異論を差し挟む雰囲気はもはやない」と。
NBO 話を少し戻しますが、口コミ効果が強いとなると、企業のマーケティングに利用できそうですね。
枝 もちろん。商用に利用してもらっても全く構いません。オープンですから。最近、Twitterのトップ画面に検索窓を用意したのですが、これを使うと、リアルタイムに情報を収集できます。
Google(グーグル)とか、Yahoo(ヤフー)といった既存の検索エンジンで、インターネットに蓄積された情報を引っ張ろうとしても、更新頻度ってせいぜい数十分とか、数時間というスパンです。しかも適切なキーワードで検索しないと、目的の情報を得られません。
リアルタイムを検索できる
枝 Twitterであれば、自分のフォローしている人が見つけた面白いものを勝手につぶやいてくれるので、勝手に自分のところに出てきます。検索しなくて人が教えてくれるという効果があります。しかも、ほかのユーザーが今考えていることだったり、そのユーザーが見ているイベントだったりという、そもそも今までは引っ掛けようがなかった情報をつぶやきを通して集約できます。
例えば、3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。日本韓国戦決勝など盛り上がるのですが、試合が平日なので普通に働いている人たちはテレビを見ることができない。ここで何が起こったかというと、Twitterで「WBC」と検索する。すると仕事が休みで中継を見ている人が、1球1球つぶやきで報告している。なので、ほぼリアルタイムに結果が分かって、日本が点を入れたら、わーっとみんなで盛り上がってという、場も共有できる。
つまり、リアルタイムに進行しているものを共有するのに適しているんですね。これはもう本当に数秒単位で更新される情報で、しかも検索しなくても、適切な人をフォローしておけば情報が飛び込んでくる。
NBO 即時性に強いTwitterならではのマーケティングリサーチがありそうですね。
枝 私、今「白くまアイス」に凝っていまして。Twitterの検索窓で「白くまアイス」と入力すれば・・・。すると、「今、白くま、食べている。おいしい」といったつぶやきが引っかかってきます。
でも「白くま、食っておいしい」みたいなことって普通ブログに書かないじゃないですか。もっと手軽に、しかも短いので、ストレートな感想が得られると。おいしいとか、まずいとか。評判を知りたい新商品のマーケティング担当者にはとても有用なツールだと思うんですね。
ほかには、デジタルカメラの新製品であれば、発売当日に購入して撮影画像をウェブにアップしていて感想が上がっている。ブログだとたぶん夜あたりにみんな書くでしょう。Twitterによって秒や分の単位で世の中の人たちが考えていることを検索できます。こう言うと、すごい大げさですけど。この部分に注目する人たちがもっともっと増えてくるかなと思っているんですけどね。
