

メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、
良いかな・・・
アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい

春秋末期の楚は、愚者たちによって
統治されていた。
能者は他国へ流れ、賢者はそねまれ死を
強要される。
しかし変革に立ち上がった者たちにも行動に
統一性は見られないのであった。
ある者は祖国を改革しようとし、ある者はあえて
祖国を滅ぼす、と主張する。
彼らはそれぞれに信念があり、正しかった。
誰が間違っていたというのか。 ・・・
韓信外伝 -春秋の光と影(兵法家)
「長卿どのは、自らの将来をどのように
考えているのだ。軍事を学問として極め、
その知識をもとにどこかの国へ仕官するつもりか。
それともその知識をもって自ら軍を編成し、
諸国を制圧して王を称するつもりなのか」
伍子胥の問いに、孫長卿、すなわち孫武は
首を振った。
「そのようなつもりはない。いずれもだ」
伍子胥は、孫武のその態度にため息をつく。
学者というものは、どうしてこうなのか。
まったく、学問のための学問というものほど、
世のために役立たないものはない。
その学問をどのように実社会に反映させるかを
考えないと、ただの自己満足に過ぎないだろう
……伍子胥はそう考えた。
「君の十三編からなる書を読んだのだが……
素晴らしいものだった。
しかし世に広めなければ、せっかくの素晴らしい
書物も意味を為さない。
君は、仕官すべきだ。呉王のもとに」
これまで伍子胥は何度となく孫武を説得してきたが、
なかなか孫武は首を縦に振ろうとしない。
そればかりか、呉王闔閭も孫武のひととなりに
好感を抱かなかったようなのだ。
「世に名を残そうとは、思わないのか」
「書を残した。それで充分だ」
しかしその書の内容は、ほぼ誰にも理解されていない。
少なくとも理解しているのは、いまのところ
伍子胥だけであった。
「理解されずともよいのだ。つまるところ、
私が言いたいことは、戦争はしないに
越したことはない、ということなのだから。
王や、施政者には受け入れ難い主張だろう」
「誰にも読んでもらおうと思わない、というのか。
ではなぜ書いたのか。誰のために?
ただ自分の探究心を満たすためか?」
「そんなことはない!」
孫武は急に感情をあらわにした。
伍子胥は、彼の気持ちがわからず途方に
暮れるばかりであった。
「いったい君は、なにをどうしたいのだ」
「…………」孫武はしばらくの間、口を噤んだ。
言いたいことはあるが、それを言っても伍子胥には
理解できまい、と思ったようである。
「君をわかってくれる者は、いまのところ私しかいない。
その私に隠し事をしてどうなるというのだ。
思っていることのすべてを話せ」
「……なら話してやろう。君が私の言うことを理解
できるかどうかは別にして」
孫武はようやく本音を口にした。
「私は、軍事を研究しながら、それを否定している。
つまりは、その害を主張しているのだ。
私が本当に言いたいことはそこにあって、どうしたら
相手に勝てるか、いかにして戦略を立てるか、
などということは、その枝葉に過ぎない。
真に軍事の利害を知る者とは、戦わずして相手を
屈服させることの重要さを知る者のことを
言うのであって、戦って必ず勝つ能力を有する者の
ことではないのだ」
百戰百勝、非善之善者也。不戰而屈人之兵、
善之善者也。
(百戦して百勝することは、善の善なる者に
あらざるなり。
戦わずに人の兵を屈するは、善の善なる者なり)
孫武は、このとき自身の書に記した内容を、
初めて自分で解説した。
「子胥どの、君にわかるか?
要は政治が大事なのさ。人の心に寄り添った政治が」
伍子胥は、言葉を失った。
孫武は、戦争を研究していながら、その不必要性を
主張しているのである。
「私の研究は、今の世に必要とされていない。
仕官などしても無駄なことだ」
「ならば自分でそれを世に説くのだ。
立派な説を持ちながら、隠者のように過ごして何になろう。
君の現状は、陰でくどくどと愚痴を並べる若者の
それと変わらない。行動するのだ。
君のその知識で、身を立てろ」
伍子胥は、口酸っぱく孫武を説得した。
そればかりでなく、孫武の意志を無視した形で、
闔閭にしきりに推挙した。
その回数は、実に七度に及ぶ。
「それほどまでに貴公が言うのであれば、
一度会ってみて、その話を聞こう。連れてくるがいい」
闔閭はさほど期待していない様子で、そう伍子胥に
告げた。
まあ、会ってみるだけなら構わない、とでも
言いたそうな表情である。
伍子胥は喜色をあらわにして、そのことを
孫武に伝えた。
だが、相変わらず孫武の態度は素っ気ない。
「どうしても王の御前に行けというのであれば、
君の顔を立てて行くことにしよう。
しかし、王には人に命じて戦わせることの厳しさを
実感していただく。
子胥どのにはどうか……口出しをせずにいただきたい」
伍子胥は受け入れざるを得なかった。
それでも闔閭は、あらかじめ渡されていた孫武の
書物に残さず目を通してくれていたらしい。
伍子胥は、柄にもなく安堵する気持ちを
抑えきれなかった。
しかし彼の書は、闔閭の心にそれほど訴えかける
内容ではなかったらしい。
孫武は、宮廷で質問ばかりされた。
「おぬしの著書十三編……残さず読み終えたが、
余はどうも書物というものが苦手でな。
できれば口頭で説明をしていただけると助かるのだが」
孫武はそれに対して自分から説明しようとせず、
王の下問を待った。
「何なりと、ご質問がございましたらお答えします」
やや不遜な態度であったかもしれない。
「ではまず聞くが」闔閭はしかしそんな孫武の
態度には構わず、話を続けた。
手短に会見を終わらせようとしていたのであろう。
伍子胥には、そう思えた。
「おぬしの書の第一編に、『兵とは詭道なり』とある。
強くとも相手には弱く見せかけ、勇敢でも臆病だと
見せかけ、また敵に近づくとも遠くにいると見せかける
……とのことだが、結局はそれをどうやって
やるのかがもっとも知りたい点だ。
おぬしは具体的にこれをどう説明する?」
「ではお答えします。相手を戦場で騙すことには、
臨機応変の対応が必要ですが、綿密な計画を
会議の段階でたてておくことが必要です。
つまり、会議の段階で勝つことは難しいと判断したら、
戦わない。
勝算もなく戦場に立ち、そのうえ現場で臨機応変な
対応を迫られたら、まったく勝ち目はございません。
……とはいえ、戦争とは常に自分たちが仕掛ける
ものとは限らず、敵から攻められることによって
否応なく開戦を迫られる場合も多々ございます。
そのときこそ、詭道が役立つのです。
相手よりも強く、勝算があれば、弱く見せかけることで
敵を油断させることができましょう。
逆に相手よりも弱く、勝ち目がない場合は、あえて
強固に国境を防衛することで敵に警戒心を引き起こす
ことができます。
それによって決定的な破局は避けられましょう」
孫武はそのように答えた。
・・・つづく
愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る・・

ドラッグユタカでは、毎年、夏休みに入ると
子供向けのイベントをいろいろと企画している。
その一番の人気は、金魚すくいだ。
朝から、子どもたちが順番を競ってやってくる。
昔は、縁日の定番だった。
「5匹すくった!」「わたしは7匹」とみんなで
自慢し合う。
でも最近は、金魚すくいをするのは初めて、
という子供も多い。
ほとんどの子が、すぐに紙が破けてしまう。
「あ~ザンネンだったね~。でも大丈夫だよ、
3匹あげるからね」と言い、アルバイトのリョウは
小学1年生くらいの男の子に、金魚をビニール袋に
入れて渡した。
すぐ近くにいた父親が、
「ペコリ」とリョウの方を向いてお辞儀をした。
その時だった。すぐ後ろにいたお婆さんが、
「ポイちょうだい」
ポイとは、金魚をすくう、あの網のことだ。
リヨウは、ポイを「はいっ」と言って渡した。
てっきり、その後ろにいた女の子のお婆ちゃん
だと思ったら、お婆ちゃんが自分で金魚を
すくい出した。
「あ~お婆さん、すみませんが、コレお子さん
限定のイベントなんですよ」
お婆さんはじっとして動かなくなり、
しゃがんだままリョウを見上げた。
なんとも悲しげな目だった。
「できんの・・・?」
そう言われて、言葉に詰まった。
しかし、これは子供向けの無料のイベントだ。
10人くらいの列ができており、後ろの方では
付き添いのお母さんが
「何かあったのかしら・・・」という顔つきでこっちを
見ている。
「ごめんね、お婆ちゃん」
そこへ店長がやって来た。
「あ、山岸のお婆ちゃん」
「・・・」
「どうしたの?リョウ君」
「いえ、このお婆さんが金魚すくいをやりたいって・・・」
リョウは困ったときに、グッドタイミングで助け舟が
現れたと思った。
「ああ、お婆ちゃん、今年も来てくれたんだね、
ありがとう。
リョウ君、お婆ちゃんにもやってもらってよ」
「でも、お子さん限定の・・・」
「いいんだよ、特別、特別!」
そう言われて、山岸と呼ばれたお婆ちゃんは
嬉々として水面に目を向けた。
ビニールプールの中には、色とりどりの金魚が
太陽の陽を浴びてキラキラと輝いてみえた。
しかし・・・。お婆ちゃんのポイの紙は、すぐに
破れてしまった。
ほとんど輪っかだけになったポイで、何度も
すくおうとするお婆ちゃん。
「お婆ちゃんに、残念賞の金魚あげてよ、リョウ君」
「あ、はい」
リョウは、アルミのカップで、金魚を3匹すくうと
ビニール袋の中に水と一緒に流し込んだ。
「わたしは、1匹でいいんよ」
「お婆ちゃん、いいからいいから」
「ううん、1匹でいい」
せっかく好意で入れてやったのに、とリョウは
憮然とした。
すると店長が、横から、
「リョウ、元気そうなヤツを1匹だけ入れて
やってくれんか」と言う。
「真っ赤なヤツにしてくれんかな」
リヨウは、仕方なく、3匹ともプールに戻し、
大きめのスイスイ泳いでいる真っ赤な金魚をすくった。
お婆ちゃんは、「ありがとう」こそ言わなかったが、
満面の笑顔で帰って行った。
金魚すくいのイベントが終わり、
後片付けをしていると店長がやって来た。
「リョウ、さっきはスマンかったな」
「あ、いえ・・・でもいいんですか・・・
子供限定のイベントに大人を参加させたら、
文句がでませんか」
「そんなことはいいんだよ。子供向けと決めたのは、
うちの店なんだから。
お客様に喜んでいただけたらそれでいい。
それにね・・・あのお婆ちゃんの場合はさ、
特別なんだよ」
「特別って・・・」
「片づけが終わったら、飲みに行こうか」
「え?」
「そこで教えてやるよ・・・山岸のお婆ちゃんのこと」
リョウは意味深な店長の言葉に首を傾げながら、
駐車場の掃除を始めた。
山岸ミネは、今年の秋が来ると78歳になる。
この町で生まれ、この町に嫁ぎ、この町から
ほとんど出たことがない。
今は一人暮らしだが、以前は夫と、息子の
3人家族だった。
息子は、稀に見る秀才だった。
野球部でもレギュラーで、甲子園を目指した。
夫婦には自慢の息子だった。
東京の大学に入って2年目の夏。
お盆の帰省のため、関西に住む友達2人と一緒に、
車で出発した。
高速道路を愛知県に入った頃のことだった。
突然、前を走っていたトラックがカードレールに
激突した。居眠り運転だった。
そこへ、息子の乗った車も突っ込んだ。
3人とも即死だった。
もう、30年以上も前の話だ。
それ以来、夫と二人きりの生活だった。
息子の話は、あえて口にしないことにした。
ミネも夫も。どちらかが言い出したことではない。
口にすると悲しいだけだとわかっていたからだ。
初盆のとき、息子が幼い頃に好きだった
カリントウを買って来た。
仏壇に供えようとすると、そこにはもう一袋の
カリントウがあった。
夫も買って来ていたのだ。そんな暮らしが1年、
また1年と過ぎ、いつのまにかお爺さんと
お婆さんになってしまった。
そして、一昨年の夏、夫は先に逝ってしまった。
心筋梗塞であっという間に。それまでは健康が
取り柄だったので、苦しんだ期間が短かった
ということでは、良い最期だったのかもしれない。
「そうそう、ユタカさんのチラシが入ってたけど、
金魚すくいは今日だったわね」
誰に言うわけでもなく呟いた。
縁側には、小さな水槽があった。
3匹の金魚は、去年の夏、近所のドラッグユタカで
もらったものだった。
麦茶を買いに行くと、何やら入口の前で子供たちが
ワイワイと騒いでいた。
覗き込むと、金魚すくいをしていた。
懐かしかった。まだ賢一が小学生の頃のことだ。
神社の夏祭りへ家族で出掛け、
3人で金魚すくいをしたことを思い出した。
思わず、前の方へと割り込み、
「わたしもやらせてもらっていいかね」
と口にしていた。
店員は、ちょっと戸惑った様子だったが、
「いいよ、お婆ちゃん」と言い、ポイを1つ
差し出してくれた。
「いくら・・・」と尋ねると、
「ううん、お婆ちゃん、コレ無料のイベントなんだよ」
と。
なんだか嬉しくなり夢中で金魚を追った。
でも、1匹もすくえなかった。
ポイが無残にも敗れてしまったのを見て、
店員はビニール袋に3匹の金魚を入れてくれ、
「ハイ!お婆ちゃん、お土産だよ」
と渡してくれた。
家に帰ると、小屋から昔使っていた水槽を捜しだし、
そこに水を張った。
そして、3匹の金魚を放った。
何日か経つうち、知らぬ間に金魚に名前を
付けて呼んでいた。
1匹は夫の賢太郎。1匹はミネ。そして、
もう1匹は賢一。
それは亡くした息子の名前だった。
「おお、賢太郎さん・・・今日も元気だね。
ミネさんともっと近づいてよ、寂しいじゃないの。
賢一はよく食べるねえ・・・などと」
それが、いつしか毎朝の日課になっていた。
しかし・・・。
桜の咲き始めた頃、ミネは風邪をひいた。
3日ほど寝込んでしまったせいで、金魚の
世話を怠った。
ずいぶん水が汚れていたので、替えてやらなくては、
と思っていたが身体が動かなかった。
「ごめんね、わたしが悪いのよ」
床上げをした朝、水槽を見て言葉を失った。
賢太郎と呼んでいた、真っ赤な金魚がプカプカと
浮かんでいた。
ミネは、賢太郎をそっと庭の片隅に、
そっと埋めてやった。
「賢一、今からユタカさんに行って、お父さんの
金魚をすくってくるからね」
水槽の中で、賢一と呼ばれた黒い金魚が泡を一つ、
プクッと噴き出した。
ミネには、何か言いたげな表情に見えた。
その横で、出目金のミネが楽しげに泳いでいる。
ミネはちゃぶ台から、ヨイショと言って立ち上がった。
・・・・
終わり
