第95話 働いたら負け その20 | 【小説】Cafe Shelly next

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喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

 マスターは相変わらずにこやかに笑う。その笑いには嫌味がない。むしろ好感すらおぼえる。

 

「たしかに働くとは『人が動く』と書くよね。じゃぁ、シンジくんがそのあたりをぐるぐると走り回ったら、働いたことになるのかな?」

 

「いや、それはただの運動でしょう。でも、オレが会社に勤めていて上司からそう命令されたら、それは働いたことになるんじゃないですか?」

 

「そこに何か意味を感じなくても、そう思うかな?」

 

「いやぁ、やっぱり意味がないと働いたって気にならないでしょ」

 

「では、どんな意味があったら働いたってことになるんだろうね?」

 

 働く意味、今までそんなこと考えたこともなかった。ただ金を稼げばいい、それが働くことだと思っていた。けれど、そうではない気になってきた。

 

「悩んでいるようだね。実は働くの語源ってあるんだ。働くとは『傍を楽にする』という意味があるんだよ」

 

 マスターは『傍』という漢字を紙ナプキンに書いてくれた。

 

「この漢字の意味、わかるかな?」

 

「えっと、端っこの方とか、そういう意味じゃなかったかな?」

 

「うん、その意味もある。もう一つはすぐそばにいる、という意味。つまりシンジくん、君の周りにいる人のことだよ」