「自分の心が、周りをそうさせているんですよ」
マスターがそう口を開いた。
「そうさせているって、どういう意味ですか?」
オレはその言葉にちょっとイラッとした。
「つまり、部下がちゃんと動かないのはオレのせいだってことですか?」
ムキになってそう言う。が、マスターは冷静にこう答えた。
「はい、そのとおりです。会社の部下や奥さん、旦那さんに対して愚痴を言われる方は多く見られます。が、その原因はほぼ間違いなく本人にあるんです」
マスターはオレにケンカを売っているのか?だがオレも大人だ。ここで挑発に乗っては相手の思うつぼだ。
「じゃぁ、オレのどこが悪いのか教えてくれませんかねぇ」
ちょっと皮肉たっぷりにマスターに尋ねてみた。マスターはコーヒーの最後の仕上げに入っている。
「もう少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか」
さすがにコーヒーを淹れる手を止めさせるわけにはいかない。ここはおとなしく待つことにした。
「そういや笹口、さっき変なことを言ってたな。ここのコーヒーのおかげで目が覚めたって。ありゃどういう意味だ?」
「ここのコーヒーには魔法がかかっているんだよ」
魔法って、ますます怪しい店だな、ここは。