「当店自慢のシェリー・ブレンドをどうぞ」
そう言って一人ひとりにコーヒーが配られた。私はあの女性店員からコーヒーを受け取る。
「どうぞ」
その優しい目としぐさに私はドキッとした。
「ありがとうございます」
その後も、その女性店員を目で追う。なんかすごく気になる人だなぁ。
早速コーヒーを口にする。
「ん、おいしぃ」
なんだろう、このホッとする味は。コーヒーなんだけど別のものを飲んでいるみたい。
例えて言うなら、冬の寒い時にあたたかいコーンスープを飲んで温まる。そんなイメージだ。夏なのにどうしてこんな風に感じるのかな?
「へぇ、これが噂のシェリー・ブレンドなんだ。面白い味がする」
そうつぶやいたのは晶。
「晶、それどういう意味?」
「あのね、由衣さんから聞いていたんだけど。ここのオリジナルブレンドは、飲んだ人が今欲しいと思う味がするんだって」
飲んだ人がほしい味? ってことは、私が感じた温かさというのは、今私が欲しがっているものなのかな。
そう思ってもう一口飲んでみる。さっきと同じような温かさを感じるけど、今度はあの女性店員が頭に浮かんだ。
あ、そうか。私が欲しがっているのって、あんな女性になりたいってことなのか。まだ自分の気持ちが漠然としているけれど、なんとなく私が欲しがっているもの、望んでいるものが見えてきた気がした。
「ではここからは一人ひとりのセッションに入ります。本当は一人十五分くらい時間をかけて行うのですが、今日は先ほどデモンストレーションでお見せした程度の簡易版にさせてもらいますね。じゃぁ、まずは誰からいきましょうか」
ここですぐにハイと手を挙げたかった。けれど、心の中の何かがそれを邪魔している。
見ると、すぐに手を挙げた人が三人。その中に晶も入っていた。結局私の順番は最後。しばらく待ちぼうけとなった。
私は一人でコーヒーカップを抱えてカウンター席にいる。このとき、店員の女性が私に話しかけてきた。
「こんにちは。お名前は確か心奈さんだったよね。珍しい名前だから覚えちゃった。私、マイっていうの。よろしくね」
マイさんか。マイさんはさらに私に話しかけてくる。
「このメタファリングっておもしろいよね」
「はい。私も受けたくてうずうずしているんですけど…」
「心奈さんもそう思うでしょ。占いと違って自分で答えを出すのがおもしろいよね」
「はい。そこはとても興味を惹かれました」
「あは、まだ緊張してるかな?」
「えぇ、ちょっと緊張が解けなくて。今回参加している皆さんって、結構積極的だし。私はあそこにいる晶から情報をもらって参加したんですけど。こういうのって初めてだから」
「そうよね、こういうのが初めてだったら緊張もするわよね」
「はい」
と言いながらも、マイさんが話しかけてくれてとても助かった。
晶は私以外にも友だちがいるのか、他の参加者と親しげに話をしているし。なんだか私、この空間に一人取り残されたような気がしていたから。
「ところで、シェリー・ブレンドはおいしかった?」
「えぇ、私コーヒーってそんなに詳しくないんですけど。このコーヒーは変わった味がしてよかったです」
「どんな味がしたかな?」
「はい、コーヒーなんですけど、冬の寒い時にあたたかいコーンスープを飲んでいるような、そんなホッとした感じの味がしました」
「そっか、気持ちの中でどこかホッとしたいっていう願望があるのかな」
「それもあるんですけど。私、今日ここに来たのは自分の進路をはっきりさせたくて。今高校二年生なんですけど、この夏の間には進路をはっきりしないといけなくて」
「そっか、高校二年生だとそんな時期にきているんだね」
「はい、そうなんです」
なんだかこのマイさんって話しやすい人だな。
そういえば、二口目を飲んだ時にこのマイさんが浮かんできたんだった。これ、きっと私はこんな女性になりたいっていう願望があるんだろうな。でもそのことはさすがに口には出せなかった。
それからマイさんは自分の高校生の頃の話をしてくれた。驚いたのは、このお店のマスターが高校の頃の先生だったってこと。そして二人は歳の差がありながらも結婚をしていること。
「それでね、私もここにあるカラーボトルを使ったオーラソーマっていうセラピーをやっているの」
「おもしろそうですね、それ」
マイさんはそういうお仕事もしているのか。
「オーラーソーマは選んだボトルに込められている意味をリーディングして相手に伝えるの。でも、今やっているメタファリングはさっき説明があったとおり、色やカードそのものには意味を持たないのよ。意味付けをするのは自分自身。ここが大きな違いかな」
「そこなんですよ。私にそんな答えがだせるのかなって思っちゃって」
「大丈夫よ。あまり考えないのがコツよ」
マイさんはそういってにっこり微笑んでくれた。なんとなく自信がでてきたな。
「じゃぁ最後、心奈さんお願いします」
「あ、はい」