第47話 心の中の心 その6 | 【小説】Cafe Shelly next

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喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

「当店自慢のシェリー・ブレンドをどうぞ」

 そう言って一人ひとりにコーヒーが配られた。私はあの女性店員からコーヒーを受け取る。

「どうぞ」

 その優しい目としぐさに私はドキッとした。

「ありがとうございます」

 その後も、その女性店員を目で追う。なんかすごく気になる人だなぁ。

 早速コーヒーを口にする。

「ん、おいしぃ」

 なんだろう、このホッとする味は。コーヒーなんだけど別のものを飲んでいるみたい。

 例えて言うなら、冬の寒い時にあたたかいコーンスープを飲んで温まる。そんなイメージだ。夏なのにどうしてこんな風に感じるのかな?

「へぇ、これが噂のシェリー・ブレンドなんだ。面白い味がする」

 そうつぶやいたのは晶。

「晶、それどういう意味?」

「あのね、由衣さんから聞いていたんだけど。ここのオリジナルブレンドは、飲んだ人が今欲しいと思う味がするんだって」

 飲んだ人がほしい味? ってことは、私が感じた温かさというのは、今私が欲しがっているものなのかな。

 そう思ってもう一口飲んでみる。さっきと同じような温かさを感じるけど、今度はあの女性店員が頭に浮かんだ。

 あ、そうか。私が欲しがっているのって、あんな女性になりたいってことなのか。まだ自分の気持ちが漠然としているけれど、なんとなく私が欲しがっているもの、望んでいるものが見えてきた気がした。

「ではここからは一人ひとりのセッションに入ります。本当は一人十五分くらい時間をかけて行うのですが、今日は先ほどデモンストレーションでお見せした程度の簡易版にさせてもらいますね。じゃぁ、まずは誰からいきましょうか」

 ここですぐにハイと手を挙げたかった。けれど、心の中の何かがそれを邪魔している。

 見ると、すぐに手を挙げた人が三人。その中に晶も入っていた。結局私の順番は最後。しばらく待ちぼうけとなった。

 私は一人でコーヒーカップを抱えてカウンター席にいる。このとき、店員の女性が私に話しかけてきた。

「こんにちは。お名前は確か心奈さんだったよね。珍しい名前だから覚えちゃった。私、マイっていうの。よろしくね」

 マイさんか。マイさんはさらに私に話しかけてくる。

「このメタファリングっておもしろいよね」

「はい。私も受けたくてうずうずしているんですけど…」

「心奈さんもそう思うでしょ。占いと違って自分で答えを出すのがおもしろいよね」

「はい。そこはとても興味を惹かれました」

「あは、まだ緊張してるかな?」

「えぇ、ちょっと緊張が解けなくて。今回参加している皆さんって、結構積極的だし。私はあそこにいる晶から情報をもらって参加したんですけど。こういうのって初めてだから」

「そうよね、こういうのが初めてだったら緊張もするわよね」

「はい」

 と言いながらも、マイさんが話しかけてくれてとても助かった。

 晶は私以外にも友だちがいるのか、他の参加者と親しげに話をしているし。なんだか私、この空間に一人取り残されたような気がしていたから。

「ところで、シェリー・ブレンドはおいしかった?」

「えぇ、私コーヒーってそんなに詳しくないんですけど。このコーヒーは変わった味がしてよかったです」

「どんな味がしたかな?」

「はい、コーヒーなんですけど、冬の寒い時にあたたかいコーンスープを飲んでいるような、そんなホッとした感じの味がしました」

「そっか、気持ちの中でどこかホッとしたいっていう願望があるのかな」

「それもあるんですけど。私、今日ここに来たのは自分の進路をはっきりさせたくて。今高校二年生なんですけど、この夏の間には進路をはっきりしないといけなくて」

「そっか、高校二年生だとそんな時期にきているんだね」

「はい、そうなんです」

 なんだかこのマイさんって話しやすい人だな。

 そういえば、二口目を飲んだ時にこのマイさんが浮かんできたんだった。これ、きっと私はこんな女性になりたいっていう願望があるんだろうな。でもそのことはさすがに口には出せなかった。

 それからマイさんは自分の高校生の頃の話をしてくれた。驚いたのは、このお店のマスターが高校の頃の先生だったってこと。そして二人は歳の差がありながらも結婚をしていること。

「それでね、私もここにあるカラーボトルを使ったオーラソーマっていうセラピーをやっているの」

「おもしろそうですね、それ」

 マイさんはそういうお仕事もしているのか。

「オーラーソーマは選んだボトルに込められている意味をリーディングして相手に伝えるの。でも、今やっているメタファリングはさっき説明があったとおり、色やカードそのものには意味を持たないのよ。意味付けをするのは自分自身。ここが大きな違いかな」

「そこなんですよ。私にそんな答えがだせるのかなって思っちゃって」

「大丈夫よ。あまり考えないのがコツよ」

 マイさんはそういってにっこり微笑んでくれた。なんとなく自信がでてきたな。

「じゃぁ最後、心奈さんお願いします」

「あ、はい」