大喪の礼をテレビで見ていたのは、もうずいぶん遠い記憶の中です。

今日もまた、同じようにテレビを見ていました。

時間の流れの速さに驚くばかりです。

 

自分の部屋のCDを整理していると、奥まった所に設置してあるラックの下から、仄白いカビのような埃を所々につけた黒いナイロン製のカバンを発見しました。

タグがついたまま。

いつ買ったのかさえ、覚えていないという有様です。

 

20代のはじめの頃、仕事にプライベートにとても充実していたように思います。

仕事はアパレルの営業、百貨店や専門店を車や電車で駆け回っていました。

強い陽射しにも負けない情熱をいつもポケットに入れていたように思います。

 

週に2回は、オールディーズのライブハウス。

月に1回は、単車で仲間とのツーリング。

会社のそばの日テレ通りにあったカフェバーで、週に3日アルバイトをしていました。

そこは、プロダクションが運営している店で、店長はそのプロダクションに所属している俳優さんでした。

かわのさんという方で、よくして頂きました。

当時、30歳を少し過ぎたあたりだったと思います。

看板を店内に持ち込み、そろそろ上がろうとしていたときに、呼び止められました。

「ちょっと、いい? 座れよ、何か飲む?」

「じゃぁ、モスコミュール、下さい」

よくあることなので、普通に灰皿を用意してからストゥールに腰掛けました。

「俺、役者辞めて、普通に働こうと思うんだ」

「そうなんですか……」

「赤ちゃん、生まれてな。それで考えたんだけど……」

「そうだったんですね。おめでとうございます」

 

唐沢寿明さん似の優しい男前でした。

でも、なかなか芽が出ないことにうんざりした様子でした。

時々ロケにも行っていたようでした。

 

ただ最後に「役者みたいなことをしていたから、どんな仕事でもできると思うんだ。これからは誰よりも嫁を安心させてやりたい」、と笑顔で話してくれたのを覚えています。

 

私に競馬を教えてくれたのは、その方です。

日曜日に何度か後楽園に行っては、夕方まで一緒に過ごしました。

「お前も、彼女のこと、大事にしろよ」、なんて言われましたっけね。

 

あの頃は、その瞬間がこの先もずっと続くような感覚でいました。

そんなことは、あるはずもないもに……。

 

ふと、そんなことを思い出してしまいました。

 

その方に貸したレコードがあります。

アルバート・ハモンドの『風のララバイ』というものです。

CDでも再発されましたが、レコードのジャケットのほうが好きですね。

聖子ちゃんの『渚のバルコニー』にそっくりな曲があります。

久し振りに聴きました。