昨夜から降り続いている雨は、とうぶん止みそうにない。
マイルスのCDをかけながら、本のページをめくる。
いつか、あの人に教えてもらったO・ヘンリーの短編集。
静かな時間の中で、スケールに沿って進むクールなトランペットの音色が心地よく耳に入ってくる。
煙草に火をつけては、文字を目で追いながら情景を思い描いていく。
知らず知らずのうちに、主人公へと意識を重ねていく。
いくつもの伏線を呑み込み、咀嚼する。
その都度、熱を孕んだ小さな溜め息が、自然に口元から漏れてしまう。
ふと気づくと、リビングはしんと静まり返り、すでにそこにはマイルスはいない。
窓を覆っているカーテンが、迫り出すように明るく浮かび上がっていた。
ついと立ち、カーテンを少しめくり、窓の外へと視線を向ける。
青空が顔を覗かせ、アスファルトは白く陽射しを跳ね返していた。
昨夜観たDVDを思い出す。
それぞれの季節の風を肌で感じながら、その時々の瞬間に心をときめかせていたことを懐かしく思う。
まるで、わくわくしながら答え合わせをするように、間違っていなかったという自負が脳裏をよぎる。
凄まじい発熱と激しい痛みは、すでに遠い水平線の彼方へと沈めてしまった。
心の奥底に、今なお癒されることなく静かに眠ったまま……。
誰もが落雷と暴風の中で見る夢だったのだ、と胸の奥にしまっている大切な書棚へとそのDVDをそっと仕舞い込む。
『Before Sunset』。あの人への返礼としての思いをしっかりと封じ込めるために……。
昨日はそんな感じで、一日を過ごしました。
今日は、空は青く澄み渡り、空気自体がきらきらと輝いています。
フロントグラス越しの山々は、くっきりとした輪郭に縁どられています。
もうそこまで春が来ているのかもしれません。
If I can make it there,
I’ll make it anywhere
It’s up to you,
New york, new york
『NEW YORK, NEW YORK』の歌詞の一部です。
どんなことでも、結局自分次第ですね。
自分がどのベクトルに向かっていくのか、ということをしっかりと胸に刻んで、いつも前を向いていたいと思います。
これは、ロバート・デ・ニーロとライザ・ミネリ主演の『ニューヨーク・ニューヨーク』という映画のテーマ曲ですが、のちにフランク・シナトラも歌いさらにヒットさせました。
個人的には、若い頃のシナトラよりも『マイ・ウェイ』あたりの頃からが好きですね。
音楽という範疇そのものが、シナトラのような気さえします。
熟成されたウィスキーのような芳醇な香りと深い味わい。
ゴージャスなサルーンで、ゆっくりと時を過ごしてみたくなります。

