グループ・レッスンを終え、エレベーターまでご一緒した生徒さんと別れて駐車場へと向かう。

 

和気あいあいと、緩やかな空気の中で進むレッスン。

 

あっという間に時間は過ぎていく。

 

ビルのドアを抜けると、冷たい夜風が余韻とともに体温を一気にさらっていく。

 

首元を押さえながら、逃げるように車の中へ。

 

煙草に火をつけ、窓を少しだけ開ける。

 

イグニッション・キーを回して、手をハンドルにかけ、シートに深く身を沈めた。

 

素敵な王子にはなれそうにはないが、沈んだ表情を少しでも明るくできるような未来を想像して。

 

 

ずいぶん前のことを、ふと思い出す。

 

小学校の球技大会でのドッジ・ボールの審判をしていたときのこと。

 

歓声が轟き華やかな笑顔が溢れる中で、幾人もの生徒たちのコートへの出入りが続く。

 

同じ生徒が何度も出入りを繰り返す中で、壁際にもたれたまま、コートに視線を注いでいる生徒を見つける。

 

「順番を守ろうか」

 

そう促して、壁際の生徒をコートへと招き入れた。

 

「たぶん、したくないんだと思う」

 

何度も繰り返しドッジ・ボールを楽しんでいた生徒が、そう言って私の袖を掴んだ。

 

「そう思っているのは、君だろ? 彼女がどう思っているかなんて、誰にもわからないよ」

 

私は、その生徒の前にしゃがみ込み、諭すように言葉を伝えた。

 

 

 

子供を叱れない親が多いと聞く。

 

しつけと虐待の区別すらつけられない。

 

今では保育所や幼稚園が、家庭に変わって子供たちにマナーを教えるという。

 

 

 

別れ話から抱く殺意。

 

歪んだ自己顕示と身勝手な承認欲求。

 

それに伴う想像力の欠如。

 

すでに、そこには相手を思いやる気持ちすら存在しない。

 

 

 

煙草を灰皿へと押しやって、ウィンカーを右へと上げ、私は駐車場をあとにした。

 

カーステレオからは、アルバート・コリンズの『DON'T LOSE YOUR COOL』が流れてくる。

 

歪みがちなギターのサウンドがリズムを刻み、夜の国道を粋に演出してくれる。

 

お気に入りのCDの中に入っている曲。