いつもとは違う時間が流れる。

 

しあわせには違いないのだが、しっくりとこない自分がいるのも事実。

 

ニュース番組でさえ、どこか遠くへと笑い飛ばされているようだ。

 

自分の部屋へと階段を上がり、

久し振りにオーディオのスイッチを入れる。

 

しっかりとしたテーマがあるわけでもなく、

なんのてらいもないブルースが緩やかに演奏される。

 

アフター・アワーのようなリラックスした中で、

各プレイヤーがソロをとっていく。

 

典型的なジャム・セッションだ。

 

そこには、相手を出し抜いてやろうという野心はなく、

また自分のうまさをひけらかそうとする見栄もない。

 

あるのは、悦びに満ちた音楽のやり取りだけ……。

 

 

『魔女のさしいれ』を読む。

 

読み終えたときに、ミス・マーサと同じような自己嫌悪に陥る。

 

人は誰しも、困った人に手を差し延べる慈愛の心を持っているもの。

 

ただ、個人的な憶測や推察によってかけられたバイアスは、ときとして自分が描く結果とは正反対の結末を連れてくる。

 

相手を思う純粋な気持ちに、ともすれば水を差しかねない行為となってしまう。

 

場合によっては、不用意な言葉は鋭利なナイフとなって相手を傷つけたりもする。

 

幾度となく失敗を繰り返してもなお、距離感がつかめずにおろおろする自分がいる。

 

 

感性のように物差しでは測れない精神的な奥深さに触れたとき、忘れかけていた感覚が鮮やかな輪郭をともなって蘇ってくる。

 

 

どんなに毛布でくるまってみても――不確かな不安に煽られ――凍えるように震えてしまう。

 

渇いた喉もとに手を当てながら、豊かな滋養を含んだ水脈を追い求めていくのだろう。

 

その行為自体が、本当の意味での自分の居場所のような気がする……。

 

 

エッタ・ジョーンズのアルバム『ALL THE WAY』。

作詞家であるサミー・カーンへのトリビュート作品です。

聴きおわったあとは、上質の映画を観終わった時のように柔らかな余韻に浸れます。