Classic Pop Album紹介
Kite / Kirsty MacColl (88)
- Kirsty MacColl
- Kite
もし私が無人島に行くとして、3枚だけアルバムを選べるとすれば、その1枚には間違いなくこのKirsty MacCollの『Kite』が入るでしょう。でも大概の人は「Kirsty MacCollって誰なの?」ってきっと思うことでしょう。それほど熱心な洋楽ファンの間にも知られていないシンガーですが、一部の日本のPopsファンの間では根強い人気があり、全米や全英でそれほど活躍していないにもかかわらず、日本ではベスト盤を含めて5枚もアルバムがリリースされているのです。
Kirsty MacCollはUKのパンクロックシンガーで、U2のプロデューサーとしても知られているスティーブ・リリー・ホワイトの奥さんです。スティッフレーベル時代には87年にUKで「ニューヨークの夢 」が2位に入るヒットを記録するほか、デビューシングルの「They Don't Know 」はトレイシーウルマンによってカバーされてUKで2位、USで8位を記録していました。そして30歳になったKirstyが大手Virginレーベルに移籍して発表した作品がこの『Kite』でした。
Kirsty MacCollと私との出会いは89年の夏でした。何か新しい音を求めていた当時の私が雑誌FMfanで伊丹さんによるアルバム解説で絶賛を浴びていたアルバムをふと目にしたのです。それがKirsty MacCollの『Kite』でした。気品ある端麗な横顔のジャケットと『Kite』というタイトル。期待に胸を膨らませてレンタルレコード店でアルバムを聞いた時に、あまりの内容に言葉を失いました。デビュー作(実はVirginに移籍しての復帰作)にしてベスト盤のような良質のポップサンドの数々。どの曲もキラキラとした輝きがあり、アルバムの中にいくつものクライマックスが用意されています。トラディショナルなロックサウンドを中心としながら、世界中のあらゆるポップミュージックが凝縮しています。そんなサウンドをKirsty の暖かい声が包み込み、自分を異次元の世界に誘う、まさに名盤とはこれのことと言わんばかりの内容でした。
アルバムはノリの良いロックナンバーの「Inocent」で始まり、さらにテンポアップした「Free World」が続きます。しっとりとしたバラードの3曲目「Mother's Ruin」が続けば、シングルヒットしたKinksのカバーでもある「Days
」につながり、まず最初のセクションが終わります。2部の始まりはBeatlesチックな「No Victim」から。アルバム全体を通じてでもそうですが、とにかくこのアルバムはハーモニーが美しくて、それが切ないメロディと絡み合って心にズシンときます。続けてC&Wな雰囲気の「Fifteen Minutes」。そしてC&Wつながりで「Don't Come The Cowboy With Me Sonny Jim」が繋がります。Kirsty 流カントリーサウンドという感じで、メロディがとにかく美しいです。そして2部の最後はノリノリのロックナンバー「Tready Lightly」。曲の構成が完璧なのでこれで結構お腹いっぱいという感じですが、これでもまだ前半です。
テープにしてB面。3部はポップなメロディサウンドの「What Do Pretty Girls Do」でスタートです。続けてトロピカルなサウンドの「Dancing In Limbo」。南国の夜に聞きたいサウンドです。静寂を破って軽やかなXTCサウンドという感じの「The End Of A Perfect Day」が続きます。3部の終わりは壮大なバラードナンバーの「You And Me Baby」。壮大なメロディラインにエコーのかかったKirsty の声が胸にグッときます。隠し味のストリングスも良い味です。4部最後のセクション(CD Bonus Tracks)はノリの良いロックナンバーの「You Just Haven't Earned It Yet Baby」から。Smithのカバーですけど、完全にKirsty色に染まっている感じで、バックコーラスが美しいです。「La Foret De Mimosas」「Complaninte Pour Ste Catherine」とフランス語のナンバーでアルバムはエンディングを迎えます。
1曲1曲がそれぞれ良く出来ている上に、曲のつながりに起伏があって、4つのセクションで構成されるトータルアルバムになっています。ほぼ自分が考えている「完璧」の要素を持ったアルバムです。ポップスの隠れた名盤の一つと言ってもいいでしょう。
★★★★★