電車を待つ。

ふと思う。最近好きな音楽聴いてないな、と。

小学校、中学校と音楽の成績が振るわなかった僕でも、音楽を聴きたくなることはある。

むしろ、そのコンプレックスが音楽の魅力を大きなものにするのである。

自分ができないことに対する敬意。もしかしたら、最近の世の中で欠けていることだったりするかもしれない。

 

イヤホンどこだっけ?

スーツのジャケットのポケット。ズボンのポケット。バックのポケット。

ポケットがたくさんだ。入れるものはどれくらいあるだろう?

 

あったあった。胸ポケットだ。

 

コードが絡んでいる。いつだったか、イヤホンが絡まない結び方を弟に聞いたはずなのに。情報が溢れかえっている毎日、便利な情報が多すぎて、僕の脳が追い付いていない。

 

ようやくほどけた。やたらと時間がかかったのは、僕の親指は人に比べて太くて、手先が不器用だからだ。少なくとも、僕は手先の不器用さを全て親指に押し付けている。親指だっていい気はしていないと思うけど、親指の方だって、何かにつけて僕に何かを押し付けているに違いない。「主人がイケメンじゃないから、俺がやたらと太いんだ。」だの、「毎日毎日パソコンに手を押しあてるのはやめるべきだ、他の指の気持ちになれ。指を大切にしないから、俺が不恰好な指になるんだ。」だの、「主人は乾燥肌だから、俺も若干乾き気味なんだ。」だの。ああ、お前の主人だって少なくとも好きで乾燥肌になっている訳ではないのだ。

 

スマートフォンのイヤホンジャックに、イヤホンをさす。ここまでの流れが全然スマートじゃない。機械ばっかりがスマートになって、少なくとも僕はついていくのがやっとだ。

 

さあ、やっと音楽が聴ける。画面を開く。バッテリーの残りは、13%。

 

ほほう。ここにきて、絶妙な数字が提供された。音楽を聴いていると、家に着くまでに、バッテリーは一桁になるだろう。その時に例えば、美女が突然「ライン交換しませんか?」と声を掛けてきたとき、このスマホは僕のスマートな立ち振る舞いをサポートしてくれるだろうか。そこで充電が切れたりしたら、毎月それなりの金額を払っている意味がないといっても過言ではない。

 

そうこうしているうちに電車がホームに滑り込んでくる。僕の些細な絶望も知らずに。

イヤホンジャックの種類が違ったときに感じる絶望に比べれば、幾分かましだ。

 

そうやって、ようやく、スマホから音楽が流れ出した。