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“ 暑くて、やってられねぇ〜 ”


  トリル

  17:00


  片側一車線のコンクリート舗装路、

  バイク、トライシクルやジプニーが行き交い、

  途切れることないエンジン音、排気音、

  そして荒れた路面からのロードノイズ。


  その通り沿いの一軒間口サリサリストア、

  店先でグラつくプラスチックスツールに腰掛け、

  サンミゲル・ビール小瓶をちびちびと飲み、

  店主のエディ(男性30代)のキレのないジョークを、

  それなりに聞き流しながら。


  この店は7年目、

  エディは元々ドッグフードのペディグリーと、

  m & m チョコを扱う大手問屋の営業マン。

  ジョークにキレはありませんが、

  頭のキレは良く、人を、

  とりわけ、お客さんをよく観て、

  どんな無駄話であろうと、よく聴き役に徹し、

  そしてこの店も成功しています。





  店先にここで一番売れているスクーター、

  ヤマハのミオ(125CC)が停まり、

  車体と同じショッキングピンクのシャツを着た、

  丸い体型の女性が降りて来ます。

  最初、その背中にパーカーのフードのように見えたのは、

  リュック。

  彼女、エディに軽くあいさつしてから、

  その背中に張り付いたリュックを、

  身体をよじって外し、ファスナーを開け、

  白いコットンのシャツ3枚、

  ひざ下丈のジーンズ3本を出し、

  まったく興味無さそうにエディへ手渡します。


  シャツ、ジーンズともにガイサノ(総合スーパー)の、

  頭文字の 「G」を丸いロゴにデザインされた、

  値札が付いていて、エディと数語交わして、

  シャツ、ジーンズを残して、

  またミオに乗って走り去ります。



  エディ「これ値札の半額なんだ」、

  ボク「どうして半額なの?」、

  エディは下唇を軽く噛んで、言葉を探しています。

  エディ「ショップリフティングなんだよ」、

  ボクはビールを持つ手を止め、

  黙って小さく数回頷きます。

  ショップリフティングとは万引きのこと。


  「万引きの取締りに、元万引き犯を使う」、

  そんなジョークも聞いたことあり、

  ただ、それはジョークではなく本当かも。


  エディ「もちろん、これは悪いことだけど、

             彼ら、これでしかカネを得る手段が無く、

             そのカネで米や日々の生活品を買うんだよ、

             ほんと、それだけなんだ」


  エディは「米/ブガス」と言うときに、

  フィリピン人がよくやる、手のひらをつぼめて、

  自分の口の前に持っていく仕草、

  「食べること」をボクへ示します。



  ボクは何度かそういう話を聞いたことがあり、

  まぁ、驚きはしませんが、

  実際に「取引き」されるのを観て、

  彼らの家、その壁と同じコンパネを使い、

  そこへ4本の脚を釘打ちしただけのテーブルの上、

  あるいは、どこかでもらって来た、

  リノリウム敷きの床に直接置かれている、




  ご飯と、そのオカズを想ってしまうんです。