「ボゥン」というスピーカーに通電する音のすぐ後、
ホイットニー・ヒューストンの「オール・アット・ワンス」が、
ボクのAM/FM ラジオの音を遮ります。
向いのアレックス(男性53歳)の家の、
ステレオのスイッチが入り、
日曜日の朝、幅6メートルの砂利道を越えて来る音。
AM局、ABS-CBN ラジオからは、
オカマのDJと、キリスト教会から派遣されて来るらしい女性が、
主(ゴッド)について、道徳の教科書に載っていそうな、
一般的で、あたりまえなことを、繰り返します。
ビサヤ語よりも、英語の割合が多く、
別に難しいことを言っているのではないので、
ボクにも分かります。
その女性(30~40代)は、
「幸せとは物質的なモノではなく、
自身のココロを、強く正しく導くことで手にするモノ、
それが、より良い人生につながります」と。
彼女はもう忘れてしまったのでしょうか、
彼女の8歳の誕生日、白熱電球に羽虫が集まるその下、
お母さんがテーブルに並べた、家族7人分のスパゲティ、
主役の彼女のスパゲティだけ、多めに盛りつけられた皿を。
ハイスクール(13歳から)入学前に、
お母さんと一緒に、町一番の衣料品店へ買いに行った、
彼女初めてのブラジャー。
彼女は薄いピンクを手に、お母さんはその手書きの値札を見て、
「二着(スペア)は買えないけど、いいかい?」、
そう、静かに訊かれ、
お母さんの目を見ることが出来なかったことを。
お母さんが「ウーカイウーカイ(中古衣料店)なら、二着買えるけど」、
そう訊かれないうちに、お金を払って店を出たかった。
彼女自身、ウーカイウーカイだけは、
中古のブラだけはイヤ、そう思っていて、
「ブラを、ウーカイウーカイなんかで買うのは、
絶対に、絶対にイヤ!、それならブラいらない!」
大好きなお母さんに、そんなこと言えるはずもなく、
彼女はいく度も、その言葉を頭の中で繰り返し、
「二着なんかいらないから、私このピンクがいい」
「幸せとは物質的なモノではなく」、
自身の夕食に好きなモノは選べ、
新品のナイキのスニーカーの箱を開けることが出来る人たちは、
そう言えるでしょう。
ラジオから聴こえる先生と、そのお気に入り優等生のやり取り、
彼らは、もう忘れてしまったのでしょうか、
それとも、
そうやって忘れようとしているのでしょうか。