その夜、彼女の働くフィリピンパブへ、
東京入国管理局の捜査員が入店して来た時、
ニコルは動くことが出来ませんでした。
お客さんでないことは、直感しますが、
捜査員が小太りのアテ(年長呼称)・メイになにか話しかけ、
その後、捜査員と目が合った瞬間、
ビクッとして、動けなくなってしまいます、
ヘッドライトに照らし出されたシカのように。
マニラ近郊から来た23歳、二児のシングルマザーは、
捜査員に促され、バンに乗り込みます。
妻の日記から
今日、品川入管へニコルに会いに行きました。
最初、1階の受付けでエイリアンカード(外国人登録証)を見せて、
7階へ行き、もう一度、受付けしました。
小さな部屋に入って待ちました。
部屋にニコルが入って来た時、ニコルは泣いてました。
私も泣きました。
小さな面会室、
二人の間には、会話できるよう穴の空いた、
プラスチック防弾ガラス。
その二人を分けるのは、
「在留特別許可の申請」済みかどうか。
妻とボクは、ボクの友人K君の助けを借り、
品川入管へ必要書類、状況説明書類を提出。
それら一式が受理された際、A4コピー紙の下を切り取った、
書類精査中の旨が記入された「受理番号」がもらえます。
この紙が妻を、信号待ちで停まったパトカーに、
怯えないですむようにしてくれるのです。
品川入管の、うすいグレーのカーペット敷きフロアで、
この紙をもらった時、
妻は「トーちゃん、もらえました、ありがとネ」
妻の頬を涙が伝い落ちます。
ニコルが強制送還される日、
妻「今日、ニコルはフィリピンへ帰ります」
ボク「そっかぁ、残念だね」としか言葉が出ません。
数年後、
妻「ニコルは今、オマーンにいますヨ」
ボク「ええ~っ!」
妻「彼氏もいますヨ」と、ニコニコ。
オマーンのホテルで、しぶとく働くニコル、
フェイスブックの写真は、長身で褐色の青年と一緒に写ってます。
首を少しかしげて、ニコルは顔の前でVサイン、
その表情は「微笑まずにはいられない」そう伝わってきます。
みなさん、
明けまして、おめでとうございます。