とっても贅沢で幸せな一日でした。
私はモダン楽器に限らず、古楽器の美しい音色が大好きです。古いからダサいとは限りませんよね。ファッション然り、芸術然り。温故知新、古きをたずねて新しきを知る。先人の知恵に学ぶことは非常に意味のあることだと思います。古い新しいに囚われず、その魅力が存分に引き出されている音楽は心に心地よく響き、「美しい」と感じます。私は小倉貴久子先生から、生演奏であるいはCDやDVDを通じて、その「美しい」音色を知ることができました。小倉先生は、さまざまな鍵盤楽器の魅力を引き出す素晴らしい名手でいらっしゃると、演奏を聴くたびに感動しています。
9月29日日曜日のこと。
私の親友である「えみちゃん」こと中嶋恵美子先生が、小倉先生のレッスンを受ける日だったので、お願いをしてそのレッスンを見学させていただきました。中嶋恵美子先生はつい先日念願のクラヴィコードをお家にお迎えしたばかりです。フォルテピアノ製作者の太田垣至さんが究極のこだわりを持って製作した、ジルバーマンモデルのクラヴィコードを。
クラヴィコードと言えば、ポータブルでシンプルな楽器というイメージがあるかもしれません。しかし、発明から何世紀にも渡って名だたる音楽家に愛されてきた事実は、この楽器がいかに優れていて素晴らしいものであるかを証明していると思います。(クラヴィコードは14世紀頃に発明され、オルガンやチェンバロ、ピアノなどと並行して、16世紀から18世紀にかけて広く使用されました。)
私は博物館(浜松市楽器博物館)でこの楽器の存在を知り、その音色の魅力を小倉貴久子先生の演奏から知りました。
現代のピアノは「楽器の王様」と呼ばれ、確かにソロも伴奏もこなせる、そして多彩な音色を紡ぎ出すことができ、まさに万能選手という風格です。大きなホールで、オーケストラをバックにして演奏しても遠くまで音を届けられるし、ソロでリサイタルも素晴らしい。聴いても弾いても素晴らしい、その魅力に惹かれたからこそ、私はピアノを弾き続け、生徒たちに指導する職業を選びました。
ですが、みなさま。
現代のピアノだけが完全無欠・唯一無二の存在ではないと、ここ数年私はつくづく感じるのです。
楽器製作者たちの試行錯誤のなが~い歴史を学び、その楽器それぞれの特性を知るたびに、私の心の中は喜びでいっぱいになりました。
人にもそれぞれの個性があるように、楽器にも個性が秘められています。ただ、その本当の魅力を知る演奏に出会えることはあまりないのかもしれません。クラヴィコード、オルガン、チェンバロ、クリスト―フォリ、タンゲンテンフリューゲル、フォルテピアノ…などなど。持ち合わせる特性は、長所もあり短所もあり。まるでそれこそ人間のように、長所は伸ばし短所は何かで補って。それぞれが得意な点を上手に引き出す製作者や作曲家、演奏家がいてくださる限り、私たちはその世界を知ることができるんですよね。
ただ、身近にその魅力を教えてくれる人がいないと、「ああ、昔の楽器ね~。音がちっちゃいんだよね。」とか、「弾きにくいよね、昔の楽器は~」みたいな感想だけで終わる場合もあります。それって、とっても悲しいしもったいないこと…!
小倉先生のご指導で、みるみる音が変わっていくえみちゃんの演奏を目の当たりにし、今日はますますクラヴィコードに惹かれました。すると、そんな私の心を読んだのか(いや本当にえみちゃんは、人の心をすごくわかってます。やっぱ読んでる。)、「やっちゃん!今日ウチ来てクラヴィコードで練習しない?練習したいでしょ?来なよ~」と誘ってくれました。
…あまりにも見透かされて私は鼻血が出そうでした(笑)。私はなにも言わなかったんですが、「やっちゃん。弾きたいよね!」と図星ど真ん中だったのでお言葉に甘えてえみちゃんのお家まで、行きました。そして、私だけの貸し切りでレッスン室を解放してくれたんです。なんという幸せ♡
※ここで中嶋恵美子先生のブログ記事(クラヴィコードをお迎えした日の記事)をご紹介!
→「我が家にクラヴィコードがやってきました」
…というわけで、えみちゃんちで2時間半練習させてもらいました。
太田垣至さん(Ohtagakki)製作、ジルバーマンモデルのクラヴィコード。
実は昨年から何度かえみちゃんにくっついて、工房におじゃまさせていただいていました。
太田垣さんのこだわり。楽器としての機能性のすばらしさを追求されるだけではなく、見目にも美しいです。
幹音は黒檀、派生音は牛骨を、にかわで接着しています。接着する箇所にはにかわが一番だそうです。この「にかわ」も、何種類もありました。牛骨は、やはり楽器用になると輸入しないと満足が得られる造りにはならないとか。
鍵盤は5オクターブ半。弦は真鍮弦。低音部にはその真鍮弦に銅線が巻き付けてあります。この巻き付けもご自分でされるそうです。…凄すぎます。
そしてこの共鳴部分。響板はスプルース材(これもやはり輸入のもの)を使用し、厚さ3mmになるようかんなで丁寧に削って。かんなの削った跡さえ残さずきれいにかけるのが、これまた太田垣さんの究極のこだわりの一つなんだとか。
この共鳴部分、容積は小さいけれどものすごく響きます。
ローズやロゼッタと呼ばれる響孔には、羊皮紙を何層にも重ねて形作られています。その道のプロもいるそうです。
左上に少しだけ写っている「打弦部分」。
真鍮の小さな板状のものが、打鍵により弦を突き上げることで発音させます。クラヴィコードは、チェンバロやフォルテピアノとは違い、指を鍵盤から話すと音が消えてしまいます。
…クラヴィコードは、とっても演奏が難しい楽器。音をきれいに響かせること、レガートで弾くこと(オーバーレガート)を、アーティキュレーションのつけかた、どれをとっても現代のピアノとは違います。フォルテピアノとも違います。
クラヴィコードは演奏が難しいですが、指先の繊細なタッチの加減で音色が無限に変わるということを、小倉先生の演奏で知ってしまったので、畏れ多くはありますがあの音色を目指さずにはいられない自分がいました。
こんな贅沢な、幸せな、そして悩ましくでもそれが嬉しい一日が、あっただろうか…。
ずっと対話していたい楽器、それがクラヴィコードです。良い音が一音でも出せたときの解放感は、一度味わうとやめられない止まらない~です。小倉先生はクラヴィコードのことを「指を育む楽器」とおっしゃいます。えみちゃんは「クラヴィコードがうまくなると、なぜかモダンピアノもうまくなるんだよ」と言います。その言葉のひみつを、私はもっと知りたくてたまらないのです。
最後にみなさま、私の人生初めての”練習中でへにゃへにゃの動画”をアップしましたので、どうぞご覧ください。できあがった演奏ではなく、本当に練習途中の動画です。えみちゃんは「やっぱ、練習後は全然違うよ~!上手くなった!」と褒めてくれましたが、私自身は卒倒レベルの演奏です。でも敢えて、晒しますね。自分の向学のために。
ハイドン作曲、クラヴィーアソナタ変イ長調Hob.XVI:46第一楽章より抜粋
(クラヴィコード/2019年太田垣至製作、ジルバーマンモデル)
追記※↑この2日後にまた練習させてもらいました!
その動画も以下に貼り付けます。
練習するたびに、何かが変わるのが楽しいです(^^♪
追記その2※練習しながら気づいたことの一つに、
「クラヴィコードで弾く時の指使いの工夫」
があります。私なりの解釈ですが、ご覧ください。
(私の解説つきです↓)
追記その3※クラヴィコードでの練習3日目!の動画↓
えみちゃんの寛大な心意気に感謝♡
できなくても楽しい、幸せな時間です(^^♪
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