憲法論文 立法事実の使い方 | びょうそくで司法試験(加藤喬の司法試験対策ブログ)

びょうそくで司法試験(加藤喬の司法試験対策ブログ)

 加藤喬
 青学法→慶應院(既修)
 平成26年、3回目の受験で労働法1位・論文36位で司法試験合格
 その後、辰巳法律研究所で講師デビューを果たし、司法修習も終え、現在は、資格スクエア・BEXAにて、過去問分析・方法論を反映した基本7科目・労働法の総合講座を担当

  憲法論文では、違憲審査基準の適用過程で立法事実による支持が問題となることがあります。

 

 

  厳格審査の基準・中間審査・基準では、目的・手段の双方につき、立法事実を根拠とした心証形成が必要とされます。

 

 

  例えば、青少年保護のための有害図書規制の憲法21条1項適合性が問題となった岐阜県青少年保護育成条例では、規制対象である「有害図書が…青少年の健全な育成に有害である」という因果関係を支える立法事実の存否が争点となりました。

 

  

  有害図書規制について、青少年保護という目的の実現を促進するものであるとして手段適合性が認められるためには、①有害図書が青少年の健全な育成にとって有害であること(=規制対象が規制目的を阻害すること)と、②条例で定められた有害図書規制が有害図書により青少年の健全な育成が阻害される事態を防止ないし緩和するものであることが必要です。

 

 

  手段適合性が認められるためには、②のみならず、①も必要です。

 

 

  ①を欠くと、青少年保護にとって有害性のない図書を規制していることになるからです。

 

 

  厳格審査の基準・中間審査の基準では、①の因果関係について、観念上の想定として認められるのでは足りず、立法事実による支持が必要とされます。

 

 

  岐阜県青少年保護育成条例事件は、①につき、「本条例の定めるような有害図書が…青少年の健全な育成に有害であることは、既に社会共通の認識になっているといってよい」として、立法事実による支持を認めています(詳細につき、伊藤正己裁判官の補足意見参照)。

 

 

  このように、違憲審査基準の適用過程で問題となる立法事実は、手段適合性の審査において、「規制対象が規制目的を阻害するという因果関係」を支持するものとして用いられることがあります。

 

 

  ちなみに、「有害図書が青少年の健全な育成にとって有害であること」について立法事実による支持があることは、手段適合性を基礎づけるものであり、規制目的の合憲性を基礎づけるものではありません。

 

 

  仮に、「規制対象が規制目的を阻害するという因果関係」について立法事実による支持があれば規制目的は合憲であると理解すると、規制目的の中身である保護法益の価値の肯定にかかわらず、「やむにやまれぬな利益」(厳格審査の基準)や「重要な利益」(中間審査の基準)であることが肯定されることになってしまいます。

 

 

  しかし、「やむにやまれぬ利益」であるか、「重要な利益」であるかは、利益の価値に着目して判断されるものです。

 

 

  例えば、「やむにやまれぬ利益」は、他の基本的人権のレベルの利益であると理解されています(詳細につき、憲法論点教室14頁以下)。

 

 

  「重要な利益」については、制限される憲法上の権利の重要性に見合った利益であるかにより判断すると理解されています(憲法論点教室15頁)。

 

 

  平成30年司法試験の出題趣旨でも、「審査基準の設定又は当てはめにおいて、…本条例の目的についての検討、すなわち、青少年の健全育成の目的や、一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないようにするという目的が、憲法上の権利を制約する目的としてふさわしいものであるかどうかを意識した議論をすることが考えられよう。」とあります。

 

  

  もっとも、目的審査の場面でも、保護法益の価値を裏付けるものとして立法事実が用いられることがあります。

 

 

  令和元年司法試験では、社会的混乱を防止することを目的として公共利害関係事実について虚偽表現を流布することを罰則により禁止する立法措置①、選挙の公正の確保を目的としてSNS上の特定虚偽表現の削除義務をSNS事業者に課す立法措置②の合憲性が問題となっています。

 

 

  問題文には、立法措置に至る経緯として、以下の事情が記載されています。

 

 

 (ⅰ) 20XX年、我が国においても、甲県の化学工場の爆発事故の際に、「周囲の環境汚染により水源となる湖が汚染されて、近隣の県にも飲料水が供給できなくなる。」という虚偽のニュースがSNS上で流布され、複数の県において、飲料水を求めてスーパーマーケットその他の店舗に住民が殺到して大きな混乱を招くこととなった。

 

 (ⅱ) 乙県の知事選挙の際に、「県は独自の税を条例で定めて県民負担を増やすことを計画している。」という虚偽のニュースがSNS上で流布され、現職知事である候補者が落選したことから、選挙の公正が害されたのではないかとの議論が生じた。

 

 

  (ⅰ)は立法措置①に、(ⅱ)は立法措置②に対応するものです。

 

 

  (ⅰ)の使い方としては、2つ考えられます。

 

 

  1つ目は、目的審査において、防止しようとしている「社会的混乱」(1条)の中身を明らかにするために用いるという方法です。

 

 

  厳格審査の基準又は中間審査の基準を用いる場合、防止しようとしている「社会的混乱」(1条)の中身としては、「やむにやまれぬ利益」又は「重要な利益」といえるだけのものであることが要求されます。

 

 

  そして、厳格審査の基準又は中間審査の基準では、立法事実を根拠とする心証形成が必要とされますから、1条の「社会的混乱」はこういった内容・規模のものであるということについて、観念上の想定として認められるのでは足りず、立法事実を根拠として認められる必要があります。

 

 

  そこで、(ⅰ)を立法事実として使い、1条の「社会的混乱」の内容・規模を明らかにすることになります。

 

 

  ここで注意すべきは、規制目的について立法事実による支持があるからといって、当然に「やむにやまれぬ利益」や「重要な利益」が肯定されるわけではないということです。

 

 

  「やむにやまれぬ利益」や「重要な利益」であるかの判断をする際には、1条で想定されている「社会的混乱」の中身を明らかにする必要があります。

 

 

  立法事実(ⅰ)により 「社会的混乱」の中身を明らかにしたうえで、そのような内容・規模の「社会的混乱」を防止することは「やむにやまれぬ利益」や「重要な利益」といえるかという評価をすることになります。

 

 

  2つ目は、手段適合性の審査において、規制対象である公共利害関係事実についての虚偽表現の流布が「社会的混乱」をもたらすという因果関係を支持するものとして立法事実(ⅰ)を使うという方法です。

 

 

  立法措置②では、立法事実(ⅱ)は、手段適合性の審査において、SNS上の特定虚偽表現により「選挙の公正」が害されるという因果関係を支持するものとして使うという方法しかないと思います。

 

 

  なお、「選挙の公正」が「やむにやまれぬ利益」や「重要な利益」であることは、国民の選挙権の重要性から説明されるものです(例えば、公民権停止事件等)。

 

 

  以上が、違憲審査基準の適用過程における立法事実の使い方となります。

 

 

  参考にして頂けますと幸いです。

 

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