調停条項の確認の準備が整うまで、待合室で待っていると、男性調停委員が「準備ができました」と呼びに来た。

弁護士トンデモ先生が先に入り、私は窓側の一番奥の席に着く。
真ん中に裁判官を挟んで、その左隣に男性調停委員、右隣に女性調停委員が並んで座っている。その脇に、書記官。

女性調停委員が相手方を招き入れた。

相手方弁護士が入ってきた。続けて夫が入室して、ドア側の一番手前の席に座った。互いの弁護士を挟んで、横並びに座っているので、夫の顔もその様子も見えない。
私の心はとても静かだった。

全員揃ったところで、裁判官が条項を読み上げる。権力に弱い夫は、裁判官が条項を読み上げる度に深く頷いていた。夫弁護士はメモを取っていた。
すべて読み上げた後、弁護士トンデモ先生が「愛犬の遺骨は分骨するでということでいいですね。それから、食器はどうしますか」と言った。
すかさず、私は「ウエッジウッドは、どうぞお持ちください。有田焼は、どんな器ですか」と身を乗り出し、夫の方を見た。
夫は「青と白の器です」と、か細い声で、ボソボソと言った。こちらを向くことも目を合わすこともなく、まるで魂が抜けたような表情だった。

あんなに私のことを悪者にして、悪態をついたのに、随分とおとなしいじゃないか。
青と白じゃあ、どんな食器かわからないよ。
すると、弁護士トンデモ先生が気を利かせて、「写真を撮って、送ってください」

こうして、調停が成立した。

書記官に「収入印紙を買ってきてもらえますか」と言われて、私が買いに行くことになり、調停室を出ると、思わず、小声でヤッターと小さくガッツポーズをしていた。

つづく