リメイク

  ここ数十年で飛躍的に進歩したと言われる科学技術だが,日常生活においてその恩恵を受けていることも多い。その恩恵は,当然ながら音楽と映画に関しても受けている。

 

  宇宙開発や最先端医療のような一般の人間にとって分かりにくい分野での進歩とは違って,音楽,そのものというよりも,録音技術の進歩や映画における驚異的なまでの特撮技術の向上が,われわれの娯楽生活にもたらした貢献度は,あまりに大きいはずだが,当たり前になりすぎて,「ありがたい」と感じなくなってしまっている。

 

  ビートルズの業績は数えきれないが,中でも,ありとあらゆる音を作るための創意・工夫に賭けた情熱というものを忘れてはならないだろう。少し前に書いた「フランジャー」もその一つだが,メロトロンやシンセサイザーといった,ある意味では邪道とも言える楽器が,今日,ここまで大きな役割を果たすようになったのは,ビートルズが,かなり早い段階で,十分に使いこなしたこと。

 

  つまり,それまでは想像の中にしか存在しなかった音像を現実の音にすることができたということで,これらの新技術がいかに大きな音楽的・音響的効果をもたらすかということを実証したことだ。その功績を過小評価するようなことがあってはならない。

 

  近年,キング・クリムゾンやレッド・ツェッペリンのお約束のようになってしまった「リマスター」にしても,2009年に発売されたビートルズの全アルバムのリマスターという画期的な仕事に比べれば,ちょこまかとした印象を拭えない。

 

  個人的に最初は否定的だった「ラブ」のようなリミックスも含めて,まだまだビートルズには,新譜登場の可能性が秘められているようにも思える。リマスターを機に,それぞれの楽器ごとのデジタル・データが流出したせいか,ビートルズが残したテイクをバラバラにして,新たな組み合わせで聴かせるという海賊版も出ているようだが,それは,もはや音楽鑑賞ではなく,ビートルズ音楽の分解・再構成作業への立会ということになってしまう。

 

  ところで,75歳にして新たな挑戦を続けているポールが,古いジョージのギター・ソロを弾き直すとか,ジョンのパートを演奏し直すというようなことをやったらどうなるだろうかと考えてみたこともあるが,それは,もはやビートルズではない。

 

ビートルズ・ミュージックの中心的存在であったポールが取り組んだとしても,それは,認められないのだ。まして,いかにテクニックが優れている現代のミュージシャンが一部分だけを演奏したものであっても,それを本物と混ぜることは絶対に許されないことだ。

 

それは,ジョンやジョージの細胞からクローン人間を作って促成栽培のように急激に成長させて第二のビートルズを作る計画と同じくらい愚かなことだ。フリップ卿やペイジ先生でも,そんなことは絶対にしないだろう。

 

彼らが常にベスト・テイクを選択し続けてきたというビートルズの最終テイクとして仕上げるまでの過程を知れば,あとは,音のバランスやイコライジング処理くらいしかやることはないだろう。

 

音響システムには限界はないかもしれないが,人間の耳の可聴範囲には限界があるのだから,今後,更なる音質の向上にも限度がありそうだ。

 

映画に話を転じると,昔,「ミクロの決死圏」という人体の内部に潜航艇で侵入して治療するという画期的なSF映画があったことを思い出した。確か,アカデミー賞の特殊効果賞か何かを獲った名作だが,あの映画を現代のCGを駆使してリメイクすれば絶対に面白いと思って,そんな企画はないかと検索してみたら,近々,リメイク作品の制作が開始されるという話を見つけた。楽しみだ。