ロックも一つの産業になり,学問としての研究対象,文化になったので,素人ロック・ファンにすぎない僕が適当に定義づけるというのもおこがましいのだが,自分の中で,この二つは使い分けていて,完全に別のものとして認識していることに気が付いた。 

 

そう思って,ググッてみたら,やっぱり書いている人がいた。しかも,ファンキー末吉というプロのドラマーだ。ちらっと読んだが,同じことを書いてしまうと面白くないので,あえて全文は読まなかった。シンガーを日本語にすると歌手。ボーカリストは,辞書をめくったわけではないが,僕が翻訳するならば「ボーカル担当者」と訳したい。

 

ブロガーや知恵袋の回答でも,シンガーはソロで歌っている人,ボーカリストはバンドのメンバーとしてボーカルを担当している人というのが共通の理解になっているようだ。しかも,この二つは全く別のものだという人が多い。

 

 確かに「レインボウの歴代ボーカリストの中で誰が一番好きか?」と聞くことはあっても,「マイケル・シェンカー・グループの歴代シンガーで…」なんて言う人は聞いたことがない。というより,そもそもロック・ファンはシンガーなんて言わない。例えばミック・ジャガーやスティーブン・タイラーがソロ・アルバムを出しても,彼のことを決してシンガーと呼んだりしないし,長いことソロでやっているポール・ロジャースでも,彼をシンガーという人はいない。

 

 シンガーと言えば歌謡曲,ポップス,フォークだ。フォーク・シンガーとは言ってもフォーク・ボーカリストなんて言わない。だったら,シンガー・ソング・ライターはどうか。やっぱりロック界で作詞作曲して自分で演奏する人のイメージはない。代表的なシンガー・ソング・ライターと言えばボブ・ディランだ。スティービー・ワンダー,ビリー・ジョエルなら許せるかもしれないが,ビートルズのポールがソロ・アルバムを出したからと言ってシンガー・ソング・ライターというのはちょっと違うと思う。

 

  ということからすると,ロックの分野ではシンガーという言葉を使うのではなく,必ずボーカリストと言うのが正しい使い方なのではないか。ただし,中にはロック・シンガーという言い方がしっくりくる人もいる。例えば,ジャニス・ジョップリンやジョー・コッカー。どう考えても,ロバート・プラントやイアン・ギランをシンガーとは呼びたくない。

 

元々バンド出身で,彼らの最盛期がそのバンドだったからというのがその理由かもしれないが,もっと言えばシンガーはあくまでも出来上がった楽曲を上手に歌う歌の専門家だ。ボーカリストはバンド全体のサウンド・メイクにも一定の関与をしていて,例えばサビの歌い方に注文をつけたり,歌詞のない場面で叫び声を入りたりもする。どちらがいいとか悪いということでなく,プロの歌い手に徹する人がシンガーなのだろう。

 

言い換えれば,ロックはインストルメンタル担当とシンガーの合体の音楽ではなく,ボーカルを含むすべてのメンバーが刺激し合い,溶け合い,化合物になった音楽だということだ。

 

もっと極論を言えば,バック・バンドが先に揃って待っている場面に登場して歌うのがシンガーで,メンバーと一緒に出てくるのがボーカリスト。とりあえず,これで決まりと言うことでどうだろう。これに当てはまらない人がいたら,改めて書こう。