(1)問題

 

問題1 現代社会でリスクとハザードに相当するものを資料に挙げられているもの以外でそれぞれ1つずつ書きなさい。

 

問題2 資料中の下線部にあるように、ハザードのリスクを低減する方法を問題1で挙げたリスクとハザードを用いて300字以内で書きなさい。

 

【資料】

 

(3)リスク,ハザード,ペリル

 

①  リスクは日本語では危険(危険性。危険度)と訳される。いつぽう「危険」という日本語

には,リスクだけでなく。ハザード(hazard),ペリル(peril),という英語が対応しており,これらはその意味が少しずつ違う。これらの意味の取り違い,とりわけリスクとハザードが区別されずに扱われることがしばしば起こる,そしてこのことが,リスクコミュニケーションにおいて極めて重要となる。

 

②  リスクはすでに述べたとおり,望ましくない結果をもたらす可能性(蓋然性)である。そしてハザードは,望ましくない結果を起こしやすくする。あるいはその影響を拡大する物質やその状態。活動や技術などの潜在的な危険の原因や要因となるもので,危険事情,あるいは危害要因を指している。ペリルは,望ましくない結果を引き起こす引きがね,すなわち直接的原因となるもので,危険事故としてとらえられる。

 

③  地震災害を例にとると,ある地域に活断層があり,その地域が人口や建物が密集していること等がハザードとなる。ここで断層が大きくずれマグニチユード7の地震というペリルが起こる。その結果,何千もの家屋が倒壊し,何千人もの死傷者が出る,多額の経済的損害が出る。といったダメージ(損害)が具現化する。このような望ましくない結果の生じる可能性がリスクである。火災のリスクでは,たとえば電線の絶縁不良がハザード,漏電がペリル、そして火災により建物や設備が焼損したり人命が失われたりするといつたダメージが発生する可能性がリスクとなる。また,食中毒のリスクについては,腐敗した食品がハザード,その過剰摂取がペリル,それにより健康被害というダメージが生じる可能性がリスクである。

 

④  このように,リスクとハザード,ペリル,ダメージはそれぞれ別の概念であるのだが,これらはしばしば混同して扱われる。なかでもハザードとリスクは混同されやすい。人の生命・健康や環境などに何らかの悪影響を及ぼす原因。要因となる物質やその状態,生物,あるいは装置の操作などの活動といった,潜在的な危険の原因や要因がハザードであり,先に例示した活断層の存在や腐敗した食品等のほか,有毒な化学物質,腸管出血性大腸蔵自動車や原子力発電所の運転等は,すべてハザードである。そしてリスクとは,これらハザードによって実際に悪影響が生じる可能性と影響の程度である。

 

⑤  ハザードとリスクの混同の例としては次のようなことがあてはまる。食品添加物や医薬品等の化学物質による健康被害を考えたとき,通常,低容量では化学物質の反応は現れない。しかし,容量を増やしてゆくと反応が現れる。化学物質のリスク(あるひとの健康が阻害される可能性)は,その化学物質の物質としての毒性の強さだけでなく,摂取量によって決まるのである。にもかかわらず,ハザードそのものをして「リスクが大きい」ととらえられることがしばしば生じる。

 

⑥  リスクの理解と管理においては,リスクとハザードという二つの概念を区別することが肝要である。ハザードそのものを減らす。なくすことも一つの方法であるが,たとえハザードが存在していても,人が正しく操作したり,十分微量なだけ摂取したりすれば,実際に被害が生じる可能性(リスク)は小さくなる。

 

⑦  したがって,ある自然現象や物質。装置,活動等がハザードであるというだけで禁止したり排除したりせず。その便益を享受するために,実際に被害が生じるリスクを低減しながら利用する(折り合いをつける)にはどうすれば良いかを検討することは,現代社会の現実に即した考え方であろう。また。ダメージが生じてしまったことを想定して,生じたダメージにどう手当てするかをあらかじめ考えることもリスク管理の重要な機能となる。

 

(出典『リスクコミュニケーションの現在』(平川秀幸、奈良由美子、放送大学教育振興会、2018年、P23~25)

 

【類題】慶應義塾大学総合政策学部2019年、慶應義塾大学環境情報学部2021年

 

 

 

(2)解答例

 

問題1

 

ハザード:血液製剤

 

リスク:血液製剤にウイルスや異物が混入する

 

問題2

 

血液製剤にバーコードや電子タグなどのIDを貼り付ける。製剤を患者に使用した後に重大な事態が発生したとき、この製剤がいつ、どこで、どのように作られたかの履歴を辿ることができることによって、同時期に同じ工場で製造された薬剤だけを回収できる。また、製造工程で問題が発生し、製剤を回収しなければならなくなった場合にも、その問題のある製品を特定し、それがどこの業者や医療施設に販売されたかを追跡することができる。こうした潜在的なハザードを持つ血液製剤の製造・流通過程を可視化することによって、問題のある血液製剤を用いることで生じる患者のリスクや、製剤のすべての流通を止めた場合の経済的リスクを軽減することができる。(300字)

 

(3)解説

 

 今回の解答例は薬害エイズ事件※を念頭に置いて書いてみた。

 

※薬害エイズ事件:1980年代に血友病患者に対し、加非加熱製剤を治療に用いたことで多数のHIV感染者およびエイズ患者を生み出した事件。

 

 製品に電子タグなどのIDを貼り付けるシステムをトレーサビリティという。これはBSE(牛海綿脳症)問題を契機に我が国にも導入された。精肉、野菜や肉などの食品の生産地や収穫日,農薬や飼料の種類のほか,加工,流通経路などのデータを記録・管理するシステムが構築されている。このシステムは医薬品などの工業製品にも導入が進められている。

流通後にある製品に問題が出て、流通・製造過程を逆にたどり原因を突き止めることを「バックトレース」といい、逆に、製造工程で問題が起こったことが分かって、製品を回収する必要が生じたときに、その製品を特定し、流通・販売の流れを追跡することを「フォワードトレース」と言う。

 

 このように製品にタグやセンサーを付けてネットにつないで個別に管理する技術をIoT(モノのインターネット)と呼ぶ。

ここまでの文章は「IOTとは何か」(坂村健、角川新書、2016年)を参考にした。

 

 

 SFC、とくに慶應義塾大学環境情報学部入試小論文では、IoTなどのテクノロジーを用いて答案を作成することをお勧めする。総合政策学部2010年の問題で、患者の腕にIDを貼り付けたバンドを装着することで、患者の取り違いによる事故を防止するという答案を書いて合格した受験生もいる。

 

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