芸術とは何かと問われたら、
“失われた時を求める旅”だと私は答えます。
若い頃にアイドルに無関心だった私が、
中年になってNMB48劇場に通い始めたのも、
ステージで汗を流して踊る少女たちに、
失われた時だけに存在する、純粋な美を見ているからなのです。
ただし、媚薬には必ず副作用があります。
生と背中合わせにある死の影が、
必ず現実に戻った時に頭を擡げるからです。
昨日観劇した#新生!熱血ブラバン少女。に出演した
現役女子高生吹奏楽部と共演した紅ゆずるや浅野ゆう子が、
千秋楽の舞台挨拶で見せた涙も、失われた時にいた自分を、
女子高生たちに重ね合わせて見ていたからで、
芸術を求める彼女たちには、私たち以上にその思いは強いはずです。
最後に、560㎞先に住む病気で倒れた兄に合うために、
芝刈り機に乗って旅をする老人を描いた「ストレート・ストーリー」の
台詞に、私の失われた時への思いが集約されているので、
この機会に紹介したいと思います。
老人「若いときは、自分が年をとるとは思わんな。」
若者1「年とって良い事は?」
老人「眼も足も弱って、良いことなどありゃせんが、経験は積むからな。
年と共に実と殻の区別がついてきて、細かいことは気にせんようになる。」
若者2「それじゃ年とって、最悪なのは何?」
「最悪なのは、若い頃を覚えていることだ。」