映画の名台詞 PASSING ~白い黒人~ | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう

監督・脚本 レベッカ・ホール

原作 ネラ・ラーセン

撮影 エドゥグラウ

編集 サビーヌ・ホフマン

出演 テッサ・トンプソン、ルース・ネッガ、アンドレ・ホランド

2021年度 製作国 アメリカ 上映時間 99分


映画女優のレベッカ・ホールが初監督した「PASSING 白い黒人」は、

1920年代のニューヨークを舞台に、肌の白さを隠れ蓑に黒人であることを偽り、

裕福だが孤独感に苛まれながら白人社会で生きるクレアと、クレアと同じ白い肌を持つ

幼馴染で、白人のフリをして生きることが、黒人との決別を意味することだと否定的な

考えを持つアイリーンのリスクある交友によって起こる悲劇を描いた作品で、

ネラ・ラーセンの同名小説を原作にした作品です。

レベッカ・ホールが「※PASSING」を映画化した理由は、母方の祖父が主人公と同じ

白い黒人で、主人公に自分自身のアイデンティティーを見出したかったからだと、

インタビューで答えています。​​​​​​

 

※「PASSING」:白人のように白い肌を持った黒人が、白人として振る舞い、白人としての利益を

享受する生き方を選択する行為のことで、白い肌の黒人にとっては生き延びるためのひとつの手段でもあった。

出典:国文ヨコ扉.qxd

 

左からテッサ・トンプソン、レベッカ・ホール監督、ルース・ネッガ

 

白人の製作者が黒人を主人公にして映画を撮る場合に、黒人の視点から問われるのは、

描かれる人物が知的であるかと言う事です。 

例えば、アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した「グリーンブック」は、人種差別が

蔓延っていた1960年代のアメリカ南部を舞台に、天才黒人ピアニストと護衛兼運転手の

イタリア系白人が旅を続けていく中で、次第に友情を深めていく実話を基にした作品ですが、

白人運転手を黒人ピアニストが遭遇する困難な状況から救う救世主(白人の救世主)として

描いていて、黒人を白人の成長を見せるための道具として扱われていると言う批判が起こり

ました。

また、白人の救世主とは逆に、「バガー・ヴァンズの伝説」では、落ち目の白人ゴルファーを

助けるために突然現れた不思議な力を持つ黒人(マジック・二グロ)キャディーに対して、

あまりにも非現実的で、黒人のステレオタイプである従属的存在として使われ続けていると、

「ドゥ・ザ・ライト・シング」のスパイク・リーが苦言を呈しています。

白人が製作したという理由だけで、黒人の描き方を批判されることに対して、被害者意識が

強すぎるのではないかと言う声もあり、レベッカ・ホールも、フォレスト・ウィテカー

(ウガンダの独裁者アミンを演じてアカデミー主演男優賞受賞)の製作会社に本作の話を

持ち込んだところ、「なぜ白人の貴女が黒人の話を作るのか?」と疑問符を投げかけられて

います。

 

本作はシリアスな内容で、しかもモノクロで撮影されたので、興行面で心配されていましたが、

最終的に今やアメリカ映画界の良心であるNetflixに、世界配給権として1,500万ドルで

買い取られて、日本でも今月から配信されています。

 

 

アイリーンが実行委員を務めている、黒人の慈善パーティに参加したクレアについて

の白人作家ヒューとの会話から。

 

白人作家ヒュー「白人がここに来るのは、黒人を食い物にするためか?」

アイリーン 「いいえ、好奇心かと。」

ヒユー クレアを見て「シカゴの娘もか?」

アイリーン 「見た目に騙されないで。」

ヒュー 「驚いた!」

アイリーン 「そう、誰も気づかない。」

ヒュー 「君らは違いが分かるのか?」

中略

アイリーン 「見分けは無理。でも、説明できない何かを感じる事がある。」

ヒュー 「そうだな、よく分かる。人種を偽る人は多いが…黒人は白人のフリをするけど。」

中略

ヒュー 「君も偽れるだろ。」

アイリーン 「そうね。」

ヒュー 「なぜ偽らない?」

 

アイリーン 「決めつけるの?」 

      「人は誰でも自分を偽っている。」