NHKBSで小椋佳を久しぶりに見た。
井上陽水の「氷の世界」に収録されている「白い一日」や中村雅俊主演の「俺たちの旅」で
有名なシンガーソングライターだが、最初にレコーディングした作品が、
寺山修司の「初恋地獄編」であることを知らない人は多い。
現在77歳になる小椋佳はすっかり悴けて、歌声にも張りが無くなっていて、
本人曰くあらゆる欲というものを失くしてしまったそうです。
そんな分けで、今年ファイナルコンサートを開催して、
シンガーとしての活動に終止符を打つことになりましたが、
同時代を生きた吉田拓郎も今年の初夏に予定しているツアーがラストになるようで、
私も、小椋佳の名曲「さらば青春」の歌詞
“僕は呼びかけはしない 遠くすぎさるものに
僕は呼びかけはしない かたわらを行くものさえ”
の真の意味を理解できる年代になってしまったようです。
寺山修司は、私が若い頃に影響を受けた作家のひとりで、彼の主宰する劇団「天井桟敷」の
芝居に足蹴く通い、「初恋地獄編」もカセットテープで所有していますが、
今では再生するデッキも無く、CDラックの奥で過去の遺物として放置されたままです。
作品の内容は、寺山修司の言葉を借りると、
キャベツをむくと芯が出るが玉ねぎをむくと何が出るか?
と映画「初恋地獄編」のなかで質問を出された少年は
「なみだ」という答えを出すまでに一つの恋愛を体験した
このレコードは その「なみだ」の乾いたところから出発し
100人以上の同時代の人たちが 初恋の人に呼びかける声で終わる 初恋の交響詩である
歌でもドキュメントでもドラマでもなくこれは「声のアルバム」なのである
とあるように、聴く人の想像の中で作り出される脳内演劇と言えます。
涙が乾いてしまった世界を、新たな涙で潤すぐらいに、何度もこのアルバムを聴き返した
記憶が蘇り、遠く過ぎ去ったものに、呼びかけたくなってしまいました。
幸いにもCD化されているので、デッキを買う必要がなくなりましたが、
今聴き直して、当時の感動を再び味わえるか不安で、
この初恋の物語は、思い出の中に閉じ込めておく方が良いのかもしれません。