リリーのすべて(トム・フーパ―監督作品) | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

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ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう

 
監督 トム・フーパ―
原作 デヴィッド・エバーショフ
脚本 ルシンダ・コクソン
撮影 ダニー・コーエン
編集 メラニー・アン・オリヴァー
出演 エディ・レッドメイン、アリシア・ヴィキャンデル、マティアス・スーナールツ
2015年 アメリカ/イギリス/ドイツ
 
20世紀初頭のアール・デコ(装飾美術)期にパリで活躍した、エロティカの女性画で知られるデンマーク
の女流画家ゲルダ・ヴェイナーと風景画家アイナ―・ヴェイナー夫婦が見いだした謎の女性モデルを
巡る前代未聞の実話を基にした小説「世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語」
(原題The Denish Girl)が原作の本作は、ゲルダが描く架空のモデル“リリー”に扮したアイナ―が
女性としての感情に目覚め、やがて妻の支援(映画では触れられていませんが、レスビアンである
ゲルダが、罪の意識に苛まれながらも、アイナ―よりリリーを愛するようになった)で性転換手術を
受けるまでを、究極の三角関係の中で描いた作品で、通俗的な題材にありがちな覗き見趣味の
手法を避けて、品格のある文芸作品としての趣きある美しい映画に仕上がっています。
 
 
アール・デコによって、芸術が貴族から大衆のものになった影響で、女性たちのファッションは
コルセットから解放されて、女優やダンサーたちが着用する男心を擽る開放的な装いへと流行は
様変わりして行き、ゲルダはその理想像である“リリー”をモデルに、風俗雑誌やファッション雑誌の
表紙、ポスター、絵葉書等にグラフィック・アートを描いて人気を博しますが、彼女が描いた世界観や、
その背景にあるヘドニズムの世相を反映させながらヴェイナー夫婦の関係を見せていれば、
もっと人間ドラマとしての猥雑さや深みが生まれたのではないかと思いました。
ただ、リリーを演じたエディ・レッドメインが本物の容姿と違いすぎて、わざわざ映画用に書き直して
似せた絵を用意させているぐらいですから、監督も最初はゲルダの残した作品からのアプローチを
考えていた節は多分にあります。
今後、本作のヒットが切っ掛けに、劇映画で描き切れなかったリリーの新たな実像が紹介されると
思いますが、既に荒俣宏が『女流画家ケアダ・ヴィ―ナルト「謎のモデル」』と言うタイトルの書籍を
出版しているので、映画と合わせて読まれることをお薦めします。
 
ゲルダの作品と映画撮影用に本物に似せて描かれたリリーの絵
出典:twitter.com/renrudola
 
 
 
 


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