遺体は語る その2 | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう

実地研修3日目。警察署に首吊り自殺した人の遺体を引き取りに行く。

死因が分っているので、検屍扱いで解剖される事はありませんが、

病院とは違って警察の遺体安置室は倉庫みたいで、収納袋に収められて、

物同然に扱われた全裸のままの遺体は、悲しげでした。

 

首を吊って呼吸が止まるまでの時間は、通常3分から5分と言われています。

その間、全身の筋肉が痙攣を起こして収縮した後に、体が硬直して、
大小便やあらゆる体液、そしてペニスが勃起して精液まで
漏れ出すそうです。死後、鼻や口に脱脂綿で詰め物をするのは、
体液や血液が漏れ出さないための処置ですが、警察ではその処置が
行われておらず、遺体の鼻から体液が漏れていました。
運転手さんの話によると、死後3日以上経つと、
詰め物だけでは対処できないぐらい血が溢れ出してくるそうで、
何度かその光景を見ている運転手さんが、
『人間は血の詰まったただの袋』と言ったカフカは、正しいよ。と
ポツリとつぶやいたのが、いつまでも耳に残りました。

 

研修最後の日は、会社経営している社長のお父さんと

施設で暮らす単身のおばあちゃんという対照的な遺体を葬儀場まで搬送しました。

社長のお父さんは、病院から一旦自宅に戻り、家族とのお別れを済ませた後に、

親族一同を引き連れて葬儀場に向かったのですが、単身のおばあちゃんは、

死を看取る親族もない寂しい死で、病室には数名の看護婦さんがいて、

代わりに見送ってくれました。

社長のお父さんは、葬儀場に着くと遺体は湯灌(ゆかん)室に運ばれ、

親族立会いで、全身洗浄から死化粧までの湯灌の儀が行われました。

最近話題になった「おくりびと」がこれにあたります。

どんな人間でも、死は平等にやってきますが、

ふたつの遺体の現実を見て、死にも格差があることを実感しました。

 

4日間の研修中、大阪はさわやかな秋晴れの日が続きました。

この活気溢れる街のどこかを、死を積んだ車が日々走行している。

『私たちはどこから来てどこへ向かっているのか』。

6体の遺体を搬送中に車窓から流れ行く街を眺めていると、

そんな思いが、アスファルトの舗装の下に隠されてしまっているような気がしました。

 

 

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