家族と遠く離れて暮らす留学生の悩みや夢をすくいとって見せるシーンに、温かくもシビアな視点がある群像劇。

「新世界の夜明け」「恋するミナミ」に続くリム・カーワイ監督の大阪三部作の第三部「Come & Goカム・アンド・ゴー」は、大阪の梅田北区、俗に“キタ”と呼ばれるエリアで撮影されました。たくさんの観光客が殺到していた、コロナ禍前のキタを舞台に、ミャンマー人留学生やネパール難民、ベトナム人留学生、そして地元の日本人が時に関わり合い、時にすれ違う。ここに来てがっかりする人も居れば、思わぬものを掴む人も。コロナ禍は続いていますが、この先大阪がどんな町になるといいのかな、と、いろんな意味で刺激を受けました。リム・カーワイ監督は即興演出を得意とする方で、演者もクリエイティブでなければならなかったようです。劇中にはキノキネマの岸野令子さんもワンシーン出演されていますが、台詞はアドリブだったとか。キャンペーンにお忙しい中、リム・カーワイ監督に聞きました。

 

リム・カーワイ監督  シネ・リーブル梅田

 

【Q】 映像が凄くいいですね。特に大阪の町と河を俯瞰で見るシーンが綺麗です。

【リム・カーワイ監督】 あれはドローン撮影です。俯瞰撮影は上から大阪を撮りたかったので、出来る方にお願いしましたが、ドローンは上がって行かないと(どんな風に撮れているか)わからない。僕も梅田でドローンを飛ばしたことがないから、申請をして許可が降りてから中崎町を中心に、あちこち飛ばして撮っていたんです。それから映像を編集して今回の形になりました。ドローンを飛ばしながら撮影中に見ていて、「えっ、こんなに綺麗なんだ、大阪」って、僕も驚いていました。

 

【Q】 本作はコロナ禍で公開までかなり待たれましたね。その間、どんな思いで待っておられましたか?

【リム・カーワイ監督】 この映画は撮影が3週間くらいで、編集と仕上げに9カ月くらいで、全部合わせて1年以上かかりました。コロナ禍が起きたのは2020年の1月で、まだ編集をしているところでした。自分としてはすぐに公開したかったんですが、コロナ禍で公開出来なかったので、凄く悔しいという気持ちが強いですね。映画館も配給会社も全体的に影響を受けて、たくさんの映画がたまっているんです。コロナ禍で世の中が、変わってしまったのは残念ですけれども、完成してから1年待って、やっとコロナ以前の生き生きした大阪を描いたこの映画を公開出来ることになりました。

 

【Q】リー・カーションさんの役は意外でした。ツァイ・ミンリャン監督作品のイメージがあるので、最初は誰かわからなかったくらいです。でも、ストーリーの展開を追って行くうちに、天才的なキャスティングだなと思うようになりました。それから桂雀々さんも出演されていますが、彼の役演技はふくらみがあっておかしいですね。

【リム・カーワイ監督】リー・カーションさんの役は、いろんな人にオーディションに来てもらったんですが、ふさわしい人が居なかったんです。それで、リー・カーションさんがぴったりじゃないか、と思いました。桂雀々さんは、やっぱり落語家ということもあって、アドリブが凄くうまいんですよ。僕が言って欲しいと指示したことを、倍以上に膨らませるから、もの凄く面白くなるんです。

 

 

【Q】 どのキャラクターも主役になりそうですが、特に千原せいじさんと渡辺真起子さんが夫婦を演じているところは要のシーンで、2人のぶつかり方がリアルでした。

【リム・カーワイ監督】 今回はプロの役者さんにお願いして良かったなと思いますね。彼らはスキルを持っているし、こちらがお願いしたことをちゃんと理解して、自分のアイデアも取り入れて、うまくやってくれたと思います。

 

【Q】 今回は渡辺真起子さんや、兎丸愛美さんに、きわどいシーンやきわどい台詞がいっぱいあるのに、全然みだらではないですね。それで伺いたかったんでいのですが、監督は女性の役者を演出する時に、どういうことにこだわっておられますか?

【リム・カーワイ監督】 まず、リアルに彼女らのことを表現したい、というところがあります。基本的に、今回のキャラクターは全部、現実の生活に居てもおかしくないリアルな人物です。なるべく、こちらの判断を“こういうものですよ”と観客に押しつけないで、ドキュメンタリーのような感じで表現して演じてもらいます。キャラクターの背景を忠実に演じてもらうように心がけて、なるべく過剰にならないようにしているんです。

 

【Q】 劇中には、さまざまな国籍・言語・人種のキャラクターが登場しますが、監督は現場で役者さん達とどうやってコミュニケーションをとっておられたんですか?

【リム・カーワイ監督】 僕は韓国語は話せないので韓国人とは英語。日本人とは日本語。香港人の役者とは広東語。中国人とは中国語と使い分けていました。でも、今回の現場のスタッフはみんな日本人です。英語がわかる人は居ますが、それ以外の言語は分からないので、僕がどんな風に演出しているかは、多分スタッフもわからない。映画が出来上がってから、みんなやっとわかるんです。たとえば、リー・カーションが演じるシャオカンとゴウジーが演じるラオファンとのやりとりは、現場では誰もわからないんです。編集して字幕を付けてから、やっと2人の会話を知ることになる。だからみんなびっくりしてましたね(笑)。

 

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「新世界の夜明け」「恋するミナミ」に続くリム・カーワイ監督の大阪三部作の第三部「Come & Goカム・アンド・ゴー」は、大阪の梅田北区、俗に“キタ”と呼ばれるエリアで撮影されました。大阪を拠点に世界各地で活動する中華系マレーシア人のリム・カーワイ監督が描く“よそ行き”ではないキタの姿は、ご当地映画の雰囲気とも少し違います。是非映画館のスクリーンでご覧ください。

 

11月19日ヒューマントラストシネマ渋谷で公開。関西はテアトル梅田12月3日、シネ・ヌーヴォ12月4日、京都シネマ12月10日、出町座 近日、シネ・リーブル神戸 1月14日、宝塚シネ・ピピア1月28日~2月10日

 

リム・カーワイ監督・脚本・編集・製作/158分