経済学者カール・マルクスの末っ子・エリノア・マルクスを描いたヒューマン・ドラマ。1883年、マルクス亡き後、エリノアは父の志を継ぎ労働者の権利を守るための活動に取りくむ。ドイツ労働者党の依頼でアメリカに渡航し、工場労働者からカウボーイの労働条件までを視察するなど、貴重な研究を積み重ねる日々。仕事が順調に進む中、エリノアは新進の劇作家エドワードと事実婚の関係になる。しかし幸せもつかの間、ほどなくエドワードの浪費癖に苦しめられるようになっていく。

 

 

“市民革命は「ブルジョアの解放」を、社会主義革命は「プロレタリアの解放」を約束したが、革命のあとに達成されたのは、女性のエネルギーを利用しながら、それぞれ「ブルジョアの男の解放」と「プロレタリアの男の解放」にほかならなかった。”と、上野千鶴子なら指摘するところかも。(「家父長制と資本制 マルクス主義フェミニズムの地平」)先進的な思想を持ち、全ての人の平等・公平を夢見ながらも、愛する者に裏切られ、傷つきながら生きたエリノアの半生。本作のエリノア・マルクスは、悲劇の社会主義者というより、マルクス主義に対して問題提起をした女性だと読みかえることが出来ます。

又、本作の衣装や髪型は、19世紀に撮られた写真を参考にせず、主に当時の印象派の絵画を参考にしたという。その理由は、当時は写真を撮る時みんな着飾って、実際の日常の姿からかけ離れた格好をしていた・・・と監督が考えたからだそう。エリノアの服装からは、彼女のお洒落で生真面目な性格と、ヴィクトリア時代の厳しい女性規範までが伝わってくる。つまりスザンナ・ニッキャレッリ監督の現代的な解釈が、映画の細部にまで宿っている作品なのです。

 

 

1時間47分/イタリア・ベルギー/英語・ドイツ語/9月上旬より全国順次。