この曲は、誰でも一度は耳にしたことがあるのではないか。スウィングのリズムに乗せてドラムスとホーンセクションだけで奏でられるイントロ、そして何度も現れるユニゾンの間奏の、何と楽しくインプレッシブなことか!

 

 「愛するデューク(Sir Duke)」は1976年、スティーヴィー・ワンダーのアルバム『キー・オブ・ライフ(Songs in the Key of Life)』に収録されたナンバー。翌77年にはシングルカットもされ、全米1位を記録している。

 

 

 この歌に出てくる“デューク”とは、「A列車で行こう」「キャラバン」「スイングしなけりゃ意味ないね」等数え切れない名曲で知られるデューク・エリントン楽団のリーダーであり、アメリカのジャズの作編曲家を代表する超ビッグネームであるデューク・エリントンその人を指す。歌詞の概要は、「音楽にはそれ自身の世界がある。身体すべてで音楽を感じる。誰もがみんな感じるんだ。いろんな音楽の先駆者たちがいる。時が経っても彼らを忘れることはできない。みんなで音楽を感じよう!」(『洋楽和訳 Neverending Music』を参考にしました)という感じだ。歌詞にはその「音楽の先駆者」たちの実名が出てくる。

 

♪  For there's Basie, Miller, Satchmo

  And the king of all, Sir Duke

  And with a voice like Ella's ringing out

  There's no way the band can lose

 

カウント・ベイシー、グレン・ミラー、サッチモことルイ・アームストロング、そして王様のデューク・エリントン、エラ・フィッツジェラルドと、現在もジャズ・バンドで活動している私としては、足を向けては寝られない偉人たちばかりだ。

 

 

 このゴキゲンでソウルフルなスウィングジャズであり、ポップスでもある「愛するデューク」を、宏美さんは1981年7月の日比谷野外音楽堂でのコンサートで、アンコールに歌われているのである。Ⅱ部最後の「私たち」で一旦宏美さんがステージから捌けると、ドラムスが観客の手拍子を煽るようなリズムを刻み出す。パイナップル・カンパニー、ファニー・キャストのメンバーが「ノってるかい?」「ノってるよ!」のやりとりで会場を巻き込む。そしていつしか「ひーろーみ!ひーろーみ!」と宏美コールの嵐に。

 

 すると聴き慣れた「愛するデューク」のイントロと共に宏美さんが再登場。日本語詞でノリノリの歌唱を聴かせてくれる。途中でバンドメンバーの紹介があり、皆ワンフレーズずつソロを披露する。バッキング・ボーカルのファニー・キャストに続いて、「メイン・ボーカル、岩崎宏美!」の声がかかる。宏美さんがドラムスだけをバックに、有名な間奏のフレーズを超絶技巧スキャットで聴かせてくれるのだ。音域は2オクターブ+長2度、度肝を抜かれるスキャットだ。

 

 私はこの時の音源を持っていたため、何とか皆さんに聴いていただけないかと、YouTubeへのアップを頑張った。以前「時は流れて風が吹く」「Romantic Realist」をセルフアップしたことがあった。だが、その時使ったソフトはとっくに試用期間が切れており、他のフリーソフトやWebシステムで何とかしなくてはならない。今日は勤務日ではなかったので、ああでもない、こうでもないと試行錯誤しながら、四苦八苦の末どうやら「愛するデューク」の公開に成功した。✌️是非お聴き願いたい。件のスキャットは、6分45秒くらいからである。

 

 

 いかがでしたか。宏美さんのボーカリストとしてのアビリティの高さを再認識されたのではないか。この音源は、だいぶ前にカセットテープからmp3に落としたのだが、どうもカセットの回転数の関係か、他のオリジナル曲を聴くと実音より半音ほど高く聞こえるようだ。このスキャットの最高音も、ハイB♭のように聞こえるが、恐らく実際にはハイAだったのではないか。いずれにしても、私がレコードやライブで聴くことのできた最高音である。😍

 

 この歌の歌詞の通り、音楽を身体いっぱいに弾けるように感じる宏美さんが、紛れもなくそこにいたことをお感じいただけたのではないか。そして、あの日あの場所にいた聴衆の誰もが皆同じように、宏美さんの歌と音楽を、身体全体で楽しんでいたことを確信されたのではないか。その場にいた人間のひとりとして、何度聴いてもあの時の興奮が甦るのである。

 

(1981年 サマーホリデー in 日比谷 アンコール曲)