こちらでも・・・

 

☆バー憩い

 

カランカラン
バーの扉を開ける。
「お帰りなさい」と、ママの声がする。
このバーでは、「いらっしゃい」ではなく、
「お帰りなさい」で、客を出迎える。

ちなみに、ママと言っても母親の意味のママではないので、
念のため。

 

ここは、人生に疲れた者が、その羽を休ませるためにある場所。
わしも人生に疲れた時は、このバーを訪れる。
このバーには、懐かしいグッズがところせましと飾られている。
まさしく童心にかえることのできる場所。

 

ここでは、客はみんな平等。
年齢も社会的地位も関係なくなる。
ママこそが、絶対なのだ。

 

「よっ、久しぶり」
「おう、しばらく」

軽く挨拶を交わす。
ここでは敬語は厳禁。
必ずタメ口で話すこと。
そういう決まりになっている。


変わった店だと、改めて思う。
まあ、ママが決めたのだから仕方がない。
誰もママには、頭が上がらない。

 

「ねえママ」
「どうしたの?しょぼくれて」
「実は、女房とけんかしてさ・・・」
「どんなこと」
「結婚記念日を忘れてたんだ」
「大変ね・・・」

このような他愛のない会話をする。

 

そして数時間ほどしたら、お家計を済ませ店を出る。
そしてママの、「いってらっしゃい」の一言で、外へと出る。

この瞬間に、実社会へと切り替わる。
そしてまた、社会の中で生きていくのだ。

 

実はこのママは、これが本職ではない裏の顔なのだ。
表の顔は、声優をしている。


もう40年のベテランだ。

店内に飾ってあるのは、ママの昔のCDや、出演した作品の台本。
CDやライブなどで着た衣装なのだ。

 

ここに集まる客は、昔からのママのファン。
当然、若い方もいるわけで、ママのファンということでは、立場は対等になる。

ママは忙しいので、当然店に来れない時もある。


そんな時でも、店は開かれている。
大勢の人が集まり、昔話に花を咲かせる。

これはママの、若手の頃からの夢だった。


「60歳くらいになったら、お店をオープンさせてファンの集まる場所を作りたい」
当時聴いていたラジオでは、よく話をしていた。
その夢を、ママは実現させた。

 

もっとも、バーではなく、カフェにしたかったようだが・・・

ちなみに当時のリスナーで、PNを持っていた者は、今でもPNで呼び合っている。
もちろん、ママも例外ではない。

 

この店は、無くなることはないだろう・・・
そう信じたい・・・

 

Fin

 

フィクションです。