【297】からのつづき
前夜に夕食を摂った和食店は、18時前にして多くの客で賑わっており、人気のほどがうかがえる。
案内されたカウンター席で、まずは体を温めようと、地元福井は勝山の一本義を熱燗でお願いして、お造り盛り合わせと合わせる。
その日訪れた土地で目に焼き付けた風景や、心に残る出来事を振り返りながら、地の肴で一杯やるのは旅の醍醐味。
メニューにある「くもこ」とは何かを尋ねると、タラの白子とのことだったのでお願いして、夫婦らしき隣の2人連れが注文していた日本酒飲み比べセットも頼む。
聞くともなく聞こえてくる2人連れの会話やイントネーションには、どこか聞き覚えがあるなぁ、と思いながら白子ポン酢で、飲み比べの日本酒を楽しむ。
飲み比べの3種は、鯖江市にある加藤吉平商店さんの「梵・ときしらず」、福井市は安本酒造の「白岳仙・白練り」、新潟県は朝日酒造の「呼友」と、唸りを通り越して絶句させられる玄人好みのラインナップで、店の実力のほどを否が応でも感じざるを得ない。
隣の男性は、私のお造り盛り合わせを指差しながら、「同じ盛り合わせでも魚の内容も器も違うね」というようなことを奥さんらしき方に話している。
それをきっかけに「大変失礼ですが、長野県の方でいらっしゃいませんか?」と男性に尋ねると、「そうですが、何で分かったんですか?」とおっしゃるので、「私も松本に住んでいたことがあるので、懐かしいイントネーションだなぁ、と思いまして」と答える。
すると、「やぁ、まぁず。自分じゃ標準語と変わらねぇと思って話してるだけど、へぇ訛ってるだね」と素敵な返しに嬉しくなる。
旦那さんも鉄道好きだそうで、お住まいの長野市内から松本市内を走る上高地線に残る電鐘式踏切警報器の音を聴きに行った話を楽しそうに口にする。
お互い「大人の休日倶楽部」のミドル会員ということで、同年代であることが分かり、昭和の鉄道話で盛り上がる。
