彼は前で組んでいた私の片方の手を取って
ぎゅっと握った。















「ヌナに騒動の真相を伝えても
振り向いてもらえなくて
絶望に陥ってた時…
友達に別の恋をして忘れるくらいしないと
精神的に辛いだけだって言われて……
別の恋してみようかなって
少し思った時期がある……」












私は意識は彼に向けたまま
海を見つめていた。











彼の話は別に驚きもしなかった。










私に執着する必要なんてないし






それに





私もなんとなく彼を避けたり
酷い態度をしていたから


そんなことがあっても当然だった。












「俳優友達の紹介で
これから女優として有望な子に
一回だけ会った。
もちろん何人かでだけど…」










私はその話に唾を飲んだ。












「まぁ……可愛い子だった。
人気が出そうな感じの正統派の美人。
彼女は俺にもう一度会いませんかって
初めて会った日に
こそっと誘ってきた」






彼のモテエピソードを
このまま聞かされるのかなって
少し思い始めていたけど











「でも気づいたら俺は
すぐに断ってた。
ごめん、これっきりにしようって…」








そう言って
私の手を痛いくらいに握り直してきた。









「美人だし可愛いのかもしれないけど…
俺は全然興味が沸かなくて……。
話も全然頭に入ってこなかった。
彼女のこと……知りたいって思わなくて
また会いたいとも思わなかった。

結局その日に俺は
自分の頭の中には仕事かヌナ……
それしかないってことに
気づかされただけだった……」












私は彼の話を聞いて







その時の彼は




一連の騒動の結末に納得がいってないとか


私への“なんとなく“の執着心のせいで
彼女にそういう態度をとったのだろう


と思っていた。