「何それ……」
でも彼女の言葉は不満気だ。
「他のやつがやった時と
全然違うんだよな。
力加減が絶妙というか……」
俺がジロジロ見てるのが恥ずかしかったのか
彼女は手を引っ込めた。
「そんなに見ないでよ」
「なんで。
秘密でもあんのかな~って見てるだけだろ」
俺はだいぶ彼女の事が分かるようになった。
彼女の本質は
実は気が長くて
ワガママも言わない。
滅多に怒らないタイプ。
不満気なように言ったり
冷めた事を言う時は
大抵照れ隠しなんだということを
俺は見抜いていた。
中身と外見が正反対だから
勘違いされることが多くて
そこに彼女自身苦労しているということも
なんとなく分かっていた。
「あぁ…じゃあコーヒー」
「ブラック?」
「おぅ」
彼女は気を使ってくれて
コーヒーを淹れてくれた。
落ち着く雰囲気の中
マッサージしてもらって
コーヒーも淹れてくれて
あぁ………最高だ。
さっきまでのモヤモヤした気分が晴れて
やる気が出てきた。
きっと今の内だ……
そう思った俺は
彼女に
「ちょっと仕事していい?」
そう聞いた。
「どうぞ」
彼女は平然と
気にしてなさそうにそう答えてくれたから
俺は進まない作曲を
ダメ元でやってみることにした。
せっかく彼女の家に来たのに
俺は作業っていうのも悪いなと思いつつ
こういうのはタイミングとか
思い付きが大事だから
気分の良い今
やってみたいと思った。