「あの………良かったらどうぞ………」
彼女は自分の弁当を僕に差し出した。
「いや、いいよ。
俺は後で食べるから
ホント気にしないで」
「お嫌でしたらいいんですが……
ホント良かったら……」
「え……いいの…?じゃあ………」
僕はおかずを1つもらった。
「美味し~」
僕は思わず両腕を上げて表現すると
彼女はまたクスクス笑った。
僕もそれを見て笑う。
日常を忘れて
久しぶりに和やかな時間を過ごしていた。
「自分で作るの?」
「はい。1人暮らしなので」
「あ、そっか。
ここにいるってことは
地元離れてるもんね」
「はい」
「たまにさ
帰りたくなんない?地元。
俺はたまにあるんだよね~」
「私もあります」
「やっぱり地元ってなんか良いよね」
「そうですね」
そんな話をしている頃には
彼女は弁当を食べ終えていた。
すると僕は
ハッと思い出したことがあって
彼女に声を掛けた。
「まだ時間大丈夫?」
「あ、大丈夫ですよ」
僕はカバンから
未開封のコンタクトレンズを取り出した。
「これさ
俺のヌナから前にもらったんだけど
付けてみない?
度数は合わないと思うけど……」
僕は鏡やウェットティッシュを用意して
彼女にコンタクトの入れ方を教えた。
彼女は
「怖いです……」
と
積極的ではなかったけど
ダメだったらやめればいいじゃん
と説得して入れてみることにした。
僕も得意な方ではないから
よく気持ちは分かったけど
少し苦戦しながらも
なんとか入れることができた。
「わ~~すご~~い………
よく見える………」
「思ったより違和感ないでしょ?」
「全然ないです」
彼女はとても感動していて
周りをキョロキョロと見回している。
その間、僕は彼女のことを眺めていた。
彼女の目はぱっちりしていて
少し瞳の色が薄い。
光に当たると
余計に瞳が茶色に見えて
色素が薄い感じが
今時の顔に見える。
「眼鏡より良く見える感じはしますね」
「だからコンタクトにしなよ」
そう言うと彼女は
「それは…できません………」
きっぱりとそう言った。
僕は突然表情が曇った彼女に驚いた。
「どうして?」
そう問いかけると
「ごめんなさい。
もう行かないと……」
彼女は慌てて弁当を片付けて
走り去った。
彼女が眼鏡を外せない理由は
何なのだろうか………。
僕は気になったまま
再び眼鏡を掛けて仕事をする彼女を
遠くから見つめていた。
その日は結局
彼女に何も問うことなく家路についた。