一流のホテルや旅館では、パントリー(料理や飲み物の準備をする場所)の壁に、こんな紙が貼ってあったりします。
国内の有名企業の名前がずらりと並び、そして、各社それぞれが、どのグループ(財閥系など)に所属しているかが、ひと目でわかる表になっています。
なんでこんなことをするかというと?
例えば、A財閥に属する企業の忘年会を開催するとして、そこで、ライバルであるB財閥に属するビールメーカーのビールを出すわけにはいかないのです。
お酒の会社も、それぞれの企業グループに属しているので、「Aグループの宴会ではAグループに属するビール会社のビールを出す」「Bグループの宴会ではBグループに属するビール会社のビールを出す」というのは、この業界では常識でして。。。
一流のホテルでは、特別な指示がない限り、そういう配慮がされたお酒が出てきます。
さて、カメラの世界も似たようなことがありまして。
結婚式の新郎が「キャノンの社員」の場合、その撮影をする婚礼カメラマンがニコンのカメラを持って会場へ入ると、「ブーイングの嵐」です。
会場の中にはキャノンさんの関係者がいっぱいいますから、「なんだ、お前、何をしてるんだ!」「ここにニコンのカメラを持ち込むなんていい根性してるな、ちょっと、体育館の裏まで顔を貸せ」なんてことが起きるんです。
このため、ちゃんとした結婚式場では、式場のほうから写真業者のほうに、事前に情報が行って、「この新婦さん、ニコンの社員です。撮影するカメラマンのカメラはニコンでお願いします」といった指示が行われます。
このように、「ニコンの関係者」「キャノンの関係者」というのがあらかじめわかっている場合、こういう配慮が当然のようにあるわけで、それに合わせたカメラマンを配置して、それで、特にトラブルもないのですが・・・・・・
ある結婚式でのこと。
そういう事前情報は一切なく、いつものとおり、ニコンのカメラ一式(※私は、Nikon Proffessional Servicesの会員です)で撮影に行ったのですが。
宴会場に入った際に、怖い顔で睨んでくるお客さんがいっぱいいました。「なんでだろう?」と不思議に思っていたのですが。。。。仲人さんの「新郎の紹介」の話を聞いているうちにわかりました。
この新郎さんは、某建設会社の社員さんで、現在、「キャノンの新社屋の建設にあたっている人」だったのです。
そして、新郎側の来賓も、いっしょにキャノンの社屋を建てている人ばかりでして。
その来賓の人の手元にはキャノンのカメラしかないし・・・・
いやいやいや、そんな事前情報、まったくもらってませんから。。。
それにしても、建設している建物がキャノンの社屋だからって、そこまで、キャノンに忠誠を誓わなくてもいいんじゃないのでしょうか? って思うくらい、キャノンのことを持ち上げる話が多くて。
最初は私のことを睨んでいるだけの来賓でしたが、お酒が入ってくると、態度がひどくなり、
「お前、それ、ニコンだろ? いい根性してるな」
「ワレ、なめとんのか?」
といった脅迫の言葉が次々と・・・
なにしろ、建設会社の人たちですから、気性の荒そうな人も多くて、まじで、恐怖を覚えました。自分もまだ若かったし。
この一件があってから、機材を買い足しました。
「キャノンの一眼レフを2セット」購入し、キャノンの関係者であっても撮影できるようにしました。
もちろん、事前の情報入手も綿密に行なうようにしました。来賓の席次表を事前に得て、ゲストの肩書もよく調べました。
その他、
「ペンタックス」「フジ」「オリンパス」「パナソニック」「ソニー」「リコー」のカメラも揃えました。
もっとも、慣れてないカメラで大事な撮影はできませんから、上記会社のカメラに関しては、メインはニコンのカメラで撮影するものの、「オリンパス関係者のテーブルに行ってグループ写真を撮る」というときだけ、オリンパスのカメラを登場させて、「ちゃんと気を使ってますよ」とアピールします。これ、けっこう喜んでもらえました。
※「ペンタックス」「フジ」「オリンパス」「パナソニック」「ソニー」「リコー」の関係者の皆さんは、キャノンみたいに、ニコンのカメラを見て怒ることはないので、そこまで配慮しなくてもいいのですが。
その他、「露出計専門メーカー セコニック」さんの社員同士の婚礼の時は、自分もそこの露出計をもともと持っているので、実際は婚礼撮影の場で使うことはないものの、わざわざ持参し、わざとらしく、その社員さんの前で「使っているふり」をしたりします。
写真用品メーカーの「King」さんの社員の時は、Kingのハリケーンブロワーを持参し、お客さんの眼の前で、レンズ掃除をしたりします。
このように、けっこういろいろな気を使って撮影をしていたもんです。
お金かかって大変でしたけど。