風呂に浸けられた等身大のガイコツ。頭部、体幹、両足の4つにパーツ分けされているが…。どう見てもホルマリン感が半端ない…。

そりゃ、無理やわ。Mでは耐えられないだろう。

うら若き乙女が見たら、トラウマ確定事項だ。

この絵面…。事前に聞いていても恐怖しかない。

それに…何でコイツはこんなに嬉しそうなんだ…。

ガイコツを風呂に沈めてテンション上がるとは…。

友達は選ばなければいけない…。


奴「さて、行くか」

俺「何処に?」

奴「銭湯やろ。お前は風呂入らんのか?」

俺「お前がガイコツ持ってこなければ入れたわ!ってか、俺らが入ってから浸ければ良かったやん?」

奴「アホか!一番風呂は年長者って決まってるやろ」

俺「年長者って…。…。…。ホネやん…」


謎理論で振り回されるのはいつもの事だ。気軽に『銭湯行こうぜ』と言っときながら、目的地は隣の県の温泉になった。ナビで1時間半程度の道のり。

まぁ、人前で守秘義務無視して話すわけにはいかないので、車で1時間半の道のりは丁度良い。


奴「で?」

俺「あぁ、アレな。俺も詳しくは知らんけど。一昨日の夜勤で急変があってな。入院して数日やったから、延命云々の話しなんかしてない。だから、CPRするやろ?」

奴「それで?」

俺「当直医がボスミン使いまくった。8Aぐらいかな」

奴「それで?」

俺「残念ながら蘇生できず。その患者は亡くなった」

奴「使ったのはボスミンだけか?」

俺「カルテ上は…そうなってる。カルテ上は…な」


奴「なるほど。Sの言ってた事が、だいたい分かったわ。で、片付けする時にボスミンの空アンプルの中にフェノバールの空アンプルが1A混ざってたって事やな?」

俺「正解。救急カートからは当直医が自分で薬剤取ってたらしい。仕方ないけどな、こっちは心マにアンビューで手一杯やし。その状況で当直医がアンプル取り違えんようになんか注意できへんし」

奴「当直医も間違えたと気付いてないやろうしな」

俺「ま、急変時に突っ立って指示だけされても、『手が足らんねん。見たら分かるやろ。手伝えや』ってなるしな。自分から動いてくれるだけでも有難い」


奴「でも、片付ける時にフェノバールがあるわけやな。で、当直医は記憶に無いわけやな?」

俺「そして、カルテ上も使用していない事になってる。明らかに減ってるのに」